誤解される海洋プラスチックごみ問題

2021年4月6日火曜日

時事 政治

t f B! P L
Twitter上で小泉環境相の以下の発言が炎上している。
 
 
既に環境省はポリ袋有料化を実施しており、これが事実上の増税に近い作用をもたらしている事から、比較的冷静な経済クラスタからも批判的な意見が相次いでいる。
 
ポリ袋有料化により消費が冷え込み、消費者に不便を強いていることに加えて、プラスチック性使い捨てスプーンの禁止を明言し、更に「すべてのプラスチックが対象だ」と環境相が発言した事により、一気に批判的意見がTwitter上に広がった。
 
私もポリ袋有料化には批判的で「ポリ袋を有料にするぐらいなら生分解性プラスチックの袋に交換すれば良いのに」という意味の意見をTwitterに流したりしていた。
 
しかし、この件で炎上が大きくなり、更に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」が閣議決定されたという話も聞いた為、まず新法案の内容を確認し、更に背景にあるプラスチックごみ問題について少し検索して調べて見た。
すると世間に認識にかなり無知による間違いがある事が分かった。
 
以下、法案の条文へのリンク。
 
 
 
 
そこで、世間一般のプラスチックごみ問題に対する誤解をこの記事で正してみたいと思う。
 
結論から言えば、環境省が進めているプラスチックごみ対策は正しい対応である。
ポリ袋を生分解性プラスチックに置き換える事も、将来的には可能性があるが、現時点で進めるのはまだ難しい事が分かった。
小泉環境相の一連のパフォーマンスとも言える説明は、いたずらに炎上を誘うような発言が多く私は適切だとは思わないが、プラスチックごみ問題はその内容を詳細に把握するのは難しく、短時間の演説で説明できるような話ではない。
だから小泉環境相は炎上を誘うような説明をしたのかもしれない。
最初に「知っていますか、プラスチックは石油で出来ているんですよ」という発言を聞いたときは、「こいつバカなんじゃねぇか、常識だろ」と思ったが、プラスチックごみ問題の背景の複雑さを理解すると、とりあえずプラスチックごみ問題に注目を集めて、詳しい人間に詳細事情を発表させようとしているのではないかとも思える。
結果が出るまでどうなるか分からないが。
 

誤解1:ポリ袋有料化やプラスチック制限は進次郎氏の政策ではない

 
非常に評判の悪いポリ袋有料化や、プラスチック使用制限政策は小泉環境相の政策と思われているが、これらの政策は、安倍政権から始まる日本政府全体の政策である。
進次郎氏が単独で進めているわけではない。
 
2019年5月31日にプラスチックごみ対策の関係閣僚会議が行われている。
ここで安倍総理は以下のように述べている。
 
一部引用「海洋プラスチックごみ問題は、本年のG20大阪サミットの最大のテーマの一つです。その解決には、世界全体での取組が不可欠です。世界全体で目指すべきビジョンを共有しながら、その実現に向けて、各国が、実効性のある具体的な対策を実行に移していくことが求められます。議長国として、この地球規模課題の解決に向けて、リーダーシップを発揮していく考えです。」
 
また2019年10月6日に国際会議「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」(STSフォーラム)で、安倍晋三首相が海洋プラスチックごみの削減に向けた取り組みを主導する決意を表明した。
 
日本はプラスチックごみ問題の対策と解消のために世界でリーダーシップを取っていく方針であり、環境省の一連のプラスチック制限はその政策の一部である。
 
進次郎氏が一人でバカなことをやっているかのような誤解が一部に見られるが、進次郎氏は安倍政権から始まる政府の政策を担当している一閣僚に過ぎない。
 

誤解2:脱炭素・グリーン成長戦略とは別問題

 
一部にポリ袋有料化やプラスチック利用制限を、脱炭素・グリーン成長戦略と混同し、炭酸ガスの排出を制限する為にプラスチック使用を制限していると誤解している人が居る。
 
先に説明したように海洋プラスチックごみ対策は安倍政権が2019年に実施したもので、グリーン成長戦略は菅政権になってから実施した政策であり、両者はそれぞれ目的も趣旨も全く異なる独立した政策である。
 
海洋プラスチックごみ対策は、その名の通り海に投棄されるプラスチックを無くして海洋汚染の拡大を停止しようとする試みである。
安倍総理の宣言を聞けばわかるように、海洋プラスチックごみ対策は日本が始めてリーダーシップを取っている分野なので、海外に参考になる見本はなく、その政策は今のところ日本独自の物になる。
 
脱炭素・グリーン成長戦略は、主に欧州のリーダーシップで進められた政策で、日本は世界の潮流に同調しただけである。
脱化石燃料に関しては「エネルギー自給率の向上」という「怪我の功名」のようなメリットもあるので積極的に進めている側面もある。
再生エネ活用による「エネルギー自給率の向上」に関しては資源エネルギー庁が明言している。
 
海洋プラスチックごみ対策とグリーン成長戦略では、それぞれ目的が異なる。
前者は海洋汚染の除去。後者は地球温暖化の停止とエネルギー自給率の向上。
それぞれの政策は独立しているので、両者の政策が矛盾する事もある。
プラスチックごみを焼却すれば炭酸ガス排出量が増えるが、海洋汚染の除去には必要な事である。
炭酸ガスから人工光合成でプラスチックを生成すれば、プラスチックごみが増えるが、化石燃料依存の削減には必要である。
 
こういう政策ごとの矛盾は追い追い解消していくと思うが、本来政策がそれぞれ独立していて違うのだから、矛盾が生じる事はある程度しかたが無い事でもある。
縦割り行政の問題は昔からある問題であり、この問題に限った問題では無い。
 
海洋プラスチックごみ対策は、グリーン成長戦略と比べて認知度が低く、その存在自体を忘れられている側面もある。
ポリ袋有料化を脱炭素政策の文脈で批判する声が一部に聞かれるのは、その現れである。
海洋プラスチックごみ対策の認知を広める必要があるだろう。
 
 
また、一部に経済政策としてポリ袋有料化を批判している人達もいるが(以前の私も含む)、経済政策も独立した政策なので、給付金や補助金・減税などで別途対処すべきだろう。
海洋プラスチックごみ対策とマクロ経済政策は、それぞれ別の独立した政策である。
 
 

誤解3:問題は漂流物だけではなくマイクロプラスチック問題もある

 
「海洋プラスチック漂流物の大半は捕獲漁業や養殖で使用される漁具であり、ポリ袋などは少数派であり問題ではない」という批判を見た。
 
海洋プラスチック問題を、捕獲漁業や養殖で使用される漁具などの漂流物の問題と認識している人が多いが、むしろ深刻なのはマイクロプラスチックの拡散である。
ポリ袋や使い捨て容器など小さく強度の低いプラスチックは、自然の侵食により劣化しバラバラに崩れで最終的にマイクロメートルサイズのプラスチックの粒子になる。
この粒子をマイクロプラスチックと呼ぶ。
海洋プラスチック漂流物も生態系に悪い影響をもたらすが、海洋プラスチック汚染の本命はマイクロプラスチックが海洋に広まり植物プランクトンと動物プランクトンの体内に取り込まれて、食物連鎖の全ての枠組みに影響する点にある。
特に植物プランクトンと動物プランクトンの体内にマイクロプラスチックが取り込まれると繁殖などに関わる大きな影響があるそうで、魚介類を捕食する人間にも将来的にどんな影響があるかわからない。
また、海洋生物の卵や細菌・微生物などは海洋漂流物に付着して遠方で繁殖する性質があり、頑丈なマイクロプラスチックに付着すると自然界ではあり得ないほど遠くに卵・細菌・微生物が運ばれて、特定の生物が異常発生したりするとも言われている。
病原性のビブリオ菌については付着物として確認されているようだ。
 
最近、クラゲの異常発生が頻繁に起きるのはマイクロプラスチックの影響では無いかとも言われている。
ポリ袋有料化や使い捨てプラスチック製品の禁止は、海洋のマイクロプラスチック汚染を防ぐ為である。
 

誤解4:海洋で分解する生分解性プラスチックは事実上未完成に近い

 
私も以前、ポリ袋有料化に反対していてポリ袋は全て生分解性プラスチックにすれば良いと思っていた。
しかし生分解性プラスチックについて調べて見ると、現状ではそれは難しい事が分かった。
 
生分解性プラスチックは実用化しているが、それらは温度の高い陸上でバクテリアなどにより分解される事が確認された生分解性プラスチックであり、温度の低い海洋で生分解することを確認され世界の研究機関で保証されたプラスチックはまだ存在しない。
旭化成など企業が独自研究でいくつかの生分解性プラスチックが海洋でも生分解性することを確認しているので、将来には世界の研究機関に保証された海洋生分解性プラスチックが開発される見込みはある。
素材自体は既に存在しているとも言える。
しかし、現在は国際社会の承認を受けた海洋生分解性プラスチックは存在しない。
承認プロセスがまだ終わっていないからだ。
 
海洋プラスチックごみ対策は日本が始めた政策である為、海外に参考になる政策がない。
海洋プラスチックにどのように対応するか、その手段はまだ発展途上と言わざる得ないのだ。
 
 

誤解5:プラスチックごみは、全て焼却できないから問題になっている

 
「プラスチックごみは全て焼却処分してしまえば禁止する事もリサイクルする必要も無い」という批判がある。
 
プラスチックごみは昔のゴミ焼却所のように低温で焼却するとダイオキシンなど汚染分質が出る。
しかし高温で焼却処分すると汚染分質は出ない。
現在ではゴミ焼却所では高温焼却できる施設が普及し、安全にプラスチックごみを焼却処分できるようになった。
だから理屈の上では、廃棄される全てのプラスチックを全てゴミ焼却所で高温焼却処分すれば、海洋プラスチックごみによる汚染を防げる事になる。
 
しかし、現実には全てのプラスチックごみ回収するのは難しい。
プラスチックごみが海洋に流出するルートは多岐に亘り、全てのルートで確実にプラスチックごみを回収するのは難しいからだ。
 
2017年11月の旭化成のレポートが公表されている。
 
このレポートの(上)にマイクロプラスチックの発生源が記載されている。
その部分を以下に要約して引用する。
 
1.3 各発生源と発生軽減策
 
(1) プラスチックの製造と成形加工、繊維の製造と加工
工場ではペレットやビーズが管理不十分で排水溝に流れると、河川を通じて最終的に海に流れ込み、一次的マイクロプラスチックを発生させる。
 
(2) 陸上輸送(荷積みと荷下ろし)、海上輸送(船積み、荷下ろし)の分野
輸送時や荷物の移動時、ペレットの包装袋が破れてペレットが散乱することがある。
川や海に流れ込み一次的マイクロプラスチックとなる。
 
(3) 消費者生活(消費者使用物品)
容器・包装用プラスチック製品を多量に使用し、プラスチックごみの発生が多い重要な発生源である。
使い捨てのものが多いことが問題視されており、3R(Reduce、Reuse、Recycle)により使用量を減らし、またプラスチック廃棄物の焼却時のエネルギー回収などが求められている。
そのほかに、洗濯時に廃水とともに排出する繊維くず、台所で使用するメラミンスポンジのダスト、タイヤダスト(走行時の摩耗くず)が一次的マイクロプラスチックの発生源になると指摘されている。
 
(4) 住宅・建設分野
断熱材など、建材として使用されるプラスチックが建築物の取り潰しの時、廃棄される。
工事の時、風雨などによりプラスチック建材が流れだし、河川から海洋に流れ出す。
 
(5) 農業分野
ポリエチレンやポリ塩化ビニルのフィルムが温室やマルチ栽培に大量に使用される。
使用後の処理が不十分で放置されるとプラスチックは崩壊し、大雨時などに排水溝や雨水溝から河川に流れ込む。
また、プラスチックコーティングした肥料が緩効性肥料として使用されている。肥料が徐々に溶け出した後は中空のプラスチックの殻が残る。これは、水に浮くので雨で排水溝に流されやすい。海に流出すると一次的マイクロプラスチックになる。
 
(6) 観光・レジャー分野
陸上、川辺、浜辺、海上での観光・レジャーによりプラスチックごみが排出することが多く、重要な発生源である。浜辺や海上で捨てられたプラスチックごみは直接海洋を汚染する。
 
(7) 漁業分野
捕獲漁業や養殖で使用される漁具は海洋プラスチックごみの一つの主要な発生源であり、これまで大きな問題になっている。
漁具の劣化、崩壊によって海中でプラスチックごみや繊維くずが直接発生する。また、暴風雨など悪天候やトラブルによる漁具の回収不能や、漁具の回収放棄や投棄はすべて海洋ごみになる。
 
 
日本で海洋に一年間に投棄されるプラスチックの総量は4万トンほどだそうだ。
 
海洋漂流物は寒暖差や自然の侵食で、崩壊してマイクロプラスチックになる。
以上に明記されたプラスチックごみの発生ルートを全て封じて、廃棄プラスチックを完全に焼却処分するのは素人目に見ても、あと十年は不可能だろう。
現実的には、資料にもあるように 3R(Reduce、Reuse、Recycle)に取り組み、地道に廃棄プラスチックを削減するぐらいの手段しかないのではないか。
もちろんその手段の中に「プラスチックごみの焼却処分」は含まれている。
 

誤解6:プラスチックを全て再利用するわけではなく、焼却処分も進める

 
「プラスチックごみは全て焼却処分してしまえば禁止する事もリサイクルする必要も無い」という批判にはもう一つ誤解がある。
環境省と経産省から公表されている要綱を読んで見て欲しい。
 
 
この要綱の「第二 定義」の「五」と「六」に再資源化と再資源化等という言葉の定義が記載されている。
 
 この法律において『再資源化』とは、使用済みプラスチック使用製品又はプラスチック副産物(以下『使用済プラスチック使用製品等』という。)の全部又は一部を部品又は原材料その他製品の一部として利用することができる状態にすることをいうものとすること。」
 
 この法律において『再資源化等』とは、再資源化及び使用済プラスチック使用製品等の全部又は一部であって燃焼の用に供することができるもの又はその可能性のあるものを熱を得ることに利用することができる状態にすることをいうものとすること。」
 
「再資源化」は文字通りプラスチックをリサイクルする事を示す。
しかし「再資源化等」はリサイクルだけではなく、「燃焼の用に供することができるもの」と「その可能性のあるものを熱を得ることに利用することができる状態にすること」を示す。
要するに「焼却処分」を含む意味の言葉である。
 
それを踏まえた上で次のように事業者と消費者の義務を規定している。
 
第四事業者及び消費者の責務
 事業者は、プラスチック使用製品廃棄物及びプラスチック副産物を分別して排出するとともに、その再資源化等を行うよう努め、消費者は、プラスチック使用製品廃棄物を分別して排出するよう努め、事業者及び消費者は、プラスチック使用製品をなるべく長期間使用すること、プラスチック使用製品の過剰な使用を抑制すること等のプラスチック使用製品の使用の合理化により、プラスチック使用製品廃棄物の排出を抑制するとともに、使用済プラスチック使用製品等の再資源化等により得られた物又はこれを使用した物を使用するよう努めなければならないものとすること。」
 
「再資源化等」には「燃焼の用に供することができるもの」にする事が含まれているので、「焼却処分」は含まれていると解釈できるはずだ。
焼却できるものをわざわざリサイクルしろとは言っていない。
 
「熱を得ることに利用することができる状態にすること」というのは、回収して燃料のような物に加工して使用する事を意味していると思う。
 
あくまで、海洋プラスチックごみの流出を防ぐ事が目的なので、プラスチックの利用と生産は最小減にした上で、可能な限り回収してリサイクルするか、焼却処分にする事を義務づけていると言える。
 
焼却処分は否定されていない。
 
 

「海洋プラスチックごみ対策」の認知が不足している

 
以上、様々なプラスチックごみ対策についての誤解を解説した。
 
当たり前だが、小泉環境相の政策は、安倍政権から続く日本の海洋プラスチックごみ対策の一環であり、進次郎氏個人が勝手にやっているわけではない。
 
批判の多くは、海洋プラスチックごみ対策と、脱炭素・グリーン成長戦略を混同している事による誤解と、プラスチック新法の内容を確認していないことによる誤解である。
 
また、私も含めて「海洋プラスチックごみ対策」についての認知が不足している事も原因の一つである。
 
既に紹介した旭化成のレポートは、非常に良く纏まっていて、問題の全体像を理解するには良い資料になる。
 
興味のある人は呼んで見たら良いと思う。
 
 
 
 
小泉環境相のパフォーマンスも誤解を招きやすく、もう少し他にやり方は無かったのかと思ってしまうが、「注目を集める」という意味では成功している。
実際、私はこの騒ぎで詳細を調べてこの記事を書いている。
完全に進次郎氏の術中にハマっている。
 
 
プラスチック新法と、その背景にある海洋プラスチックごみ対策の内容から考えて、プラスチックの利用制限と回収義務は、ポリ袋有料化や使い捨てプラスチック製品の製品ぐらいでは終わらない。
あらゆる分野のプラスチックの利用に制限と回収が義務付けられるだろう。
 
 
 
 
 
 
あと、蛇足だが、「バイオマスプラスチック」「生分解性プラスチック」の違いについて解説している記事を見つけたので、以下に紹介しておく。
 

このブログを検索

Translate

人気の投稿

自己紹介

自分の写真
オッサンです。実務経験は Windows環境にて C#,VB.NET ,SQL Server T-SQL,Oracle PL/SQL,PostgreSQL,MariaDB。昔はDelphi,C,C++ など。 趣味はUbuntu,PHP,PostgreSQL,MariaDBかな ?基本無料のやつ。

QooQ