システム投資は利益部門中心に、その他は既製品導入にすべき理由

2021年3月12日金曜日

システム開発 閑話

t f B! P L
以前も話した事だが、日本企業はITシステム導入時に人間系の業務手順に合わせてITシステムを開発したり、パッケージをカスタマイズしたりする傾向が強い。
SNSなどで中小零細向けに受託開発しているIT業者さん達の話にも良く「日本企業はどうして自社に合わせて一からシステムを開発するの? 既存製品を買ってきた方が安くで早いのにお金の無駄遣いだよ」
「システム導入の相談を受けるのだが、ユーザーの要件はほとんどが既存の製品を導入するだけで解決するものばかりなのだよ、なのに皆、自社専用のシステムを開発したがる」この手の話は頻繁に聞かれる事であり、昔から日本のユーザー企業の問題点として有名な課題でもある。
IT業界の人々は課題の存在に気がついているが、ユーザー企業がこの課題を理解せず、無駄に既存製品をカスタマイズしたり、パッケージを購入すれば解決する問題に、わざわざ一からシステムを開発して予算を無駄に浪費したりしている。
SIer業者はそれで利益になるから、わざわざユーザーのご機嫌を損ねてまで、既存のパッケージの導入を薦めたりしないが、一度ぐらいは既存のパッケージの導入を提案しているはずである。
 

業務をシステムに合わせる必然性

 
これも昔から言われていることだが、「システムを業務に合わせるのではなく、業務をシステムに合わせてくれ」という考え方はシステム導入による生産性向上を成功させるために必要なノウハウである。
 
米国では1990年代にはシステムを業務に合わせるやり方で失敗を重ね、2000年代に入ってから逆に業務をシステムに合わせるやり方を取るようになって、ITシステム導入によって生産性が向上するようになったと聞く。
 
なぜ「業務をシステムに合わせた」方が良いのかは以前詳しく解説したので、興味があれば見て欲しい。
ここでは簡単に説明する。
 

コストセンターとプロフィットセンターの市場価値

 
通常「企業」というのは他社にはできない「付加価値を生産する能力」が存在し、その能力を行使する事で利益を得ている。
 
「付加価値を生産する能力」は特殊な製品を開発する能力かも知れないし、特定の課題を抱えた人の問題を解消する能力かも知れない。資源や情報など普通の会社には集める事のできない物を集めで販売する能力かも知れない。
 
そして「付加価値を生産する能力」を維持するにはそれ以外の部門により、その能力を行使する為に必要な人や物や金や情報などを揃え、管理する必要がある。
そのような部門の事をコストセンターと呼ぶ。
企業において利益を生む部門は「付加価値を生産する能力」を持ち行使する部門である。
コストセンターはそれらを維持する為に存在し、コストセンター自身は利益を生まない。
コストセンターは財務会計部門かも知れないし、人事部門や調達部門かも知れない。
 
一つハッキリ言える事は、通常はその会社のコストセンターは市場全体と比較して、特別な付加価値を持つ部門ではないという事である。
 
例えばその会社の財務会計部門が他社にはマネの出来ない特殊な価値を持つ能力を持っていたら、会計事務所などのサービスを開業してその能力を販売するべきである。
しかし多くの会社のコストセンターはその能力を販売するほどの能力は無く、「付加価値を生産する能力」を維持する為だけに存在している。
 
これはコストセンターの仕事のやり方は市場全体と比較して特別な価値はなく、優れてもいないという事である。
 
逆に「付加価値を生産する能力」を持つ「利益を生む部門(プロフィットセンター)」の仕事のやり方は、市場全体と比較して、優れている事になる。優れていなければその会社に存在価値はない。
 
一般にコストセンターは経理部やバックオフィス部門を意味し、プロフィットセンターは営業や販売を示す事が多いが、ここでのコストセンターとプロフィットセンターの意味は少し違う。
会計事務所や会計ソフトベンダーなどにおいては会計業務はプロフィットセンターであり、販売を外注している製造業などにおいては製造部門がプロフィットセンターになる。
コストセンターとプロフィットセンターの定義は会社によって異なる。
その会社の付加価値を生んでいる部門がプロフィットセンターであり、それ以外の部門がコストセンターである。
 
先の二つを言い換えると、
コストセンターの業務手順には市場価値がない。
利益を生む部門(プロフィットセンター)の業務手順には市場価値がある。
と説明出来る。
 

市場価値のない業務手順のシステムを開発する必要は無い

 
ここで最初の話に戻るが、日本企業はITシステム導入時に人間系の業務手順に合わせてITシステムを開発したり、パッケージをカスタマイズしたりする傾向が強い。
 
業務ITシステムというのは業務手順をソフトウェアに落とし込んだものだ。
 
日本企業はコストセンターの業務手順を、自社専用のITシステムとして開発するケースが多い。
 
しかし、先に説明したように、コストセンターの業務手順には価値がない。
価値のない業務手順をソフトウェアにする事には意味が無いのだ。
 
コストセンターの業務手順は財務会計や在庫管理など体系化された業務知識が存在し、それらは汎用性の高いものほど、パッケージソフトウェアとして開発され販売されている。
それらのパッケージソフトウェアを開発している会社は、その業務手順で特別な付加価値を持つ会社である。
その業務手順においては、普通の会社はパッケージソフトウェアで実現している業務手順ほど優れた業務手順を採用していないし、能力もない。
 
先に説明したように、優れたコストセンターの業務手順を有しているなら、それはサービスとして販売しているはずだからである。
 
つまり、普通の会社はコストセンターにITシステムを導入するなら、既存のパッケージソフトウェアやSaaSなどをカスタマイズしないで、そのまま導入するべきなのだ。
コストセンターの場合は既存パッケージの業務手順の方が優れているからである。
 
よってコストセンターの場合は、既存パッケージソフトウェアに、人間系の業務を合わせるべきなのだ。
つまり「業務をシステムに合わせる」という事だ。
 

付加価値を持つ業務手順は自らシステム化すべきだ

 
これに対し、「付加価値を生産する能力」を持つ「利益を生む部門(プロフィットセンター)」の業務手順は、市場の中で特別な価値を持つ。
利益を生む部門の業務手順は他社にはない仕事のやり方であり、その会社独自のやり方でもある。
よって利益を生む部門の業務ITシステムは、その会社独自のシステムを開発するべきである。
既存製品は通常は存在しないか、自社の業務手順に比べて劣る業務手順であるはずだ。
 
日本企業ではこの利益を生む部門の業務ITシステムの開発は、SIerへ丸投げにする事が多かった。
 
しかし、これでは業務を良く知る業務担当者の知識やノウハウが、システム開発担当者に伝わり難く、優れた業務手順がシステムに反映し難い。
 
また、それまで人間がやっていた業務を、ITシステム化した場合、業務手順自体が変わってしまう場合がある。
 
例えば図書館のような物品貸し出し業務があるとする。
 
人間が業務を遂行している場合は、本棚に書籍を内容別に分類して人間が並べ、ユーザーが本棚の本を、司書に貸し出し依頼して、司書がユーザー貸し出しの記録を残して、ユーザーに本を貸し出す。
返却時は、ユーザーから司書が本を受け取り記録を更新して、本棚に書籍を内容別に分類して並べる。
 
例えば、これをIT化すると、以下のような成る事が考えられる。
 
本にRFIDを付けておき、全ての本の情報をデータベースに保管する。
ユーザーからスマホやPCで本を検索できるようなアプリやWebシステムを提供して、本の貸し出し依頼は、スマホから行うようにする。
本は内容で分類する事なく倉庫に保管しておき、ITで本の貸し出し依頼が来たら、RFIDのデータを元に対象の本を検索して、ロボットで倉庫から搬出する。
搬出した本をユーザーに届ける。
届けるとき宅配にすれば自宅に居ながら本の貸し出しを受けられる新しい図書館になる。
データベースを複数の図書館で集約すれば桁違いの蔵書数の図書館になる。
 
業務手順をITシステム化するという事は新しい業務手順を作り出す事に繋がる。
 
だから、IT化した業務手順を新たに作り出す場合は、既存業務の業務知識とノウハウを熟知した業務担当者と、ITを良く知るITエンジニアの両方が、協力し合って新しいIT化した業務手順を作り出さなければ、ITシステム化による生産性向上は達成できない可能性が高い。
 
この場合も「業務をシステムに合わせる」という事になる。
但しこの場合はITエンジニアも業務ノウハウに合わせてシステムを構想する事になるが、業務担当者側もITやロボットの性質に合わせて試行錯誤する事になる。
 
話が少し逸れたが、その会社で付加価値を生み出しているプロフィットセンターの業務手順はITと組み合わせる事で新たな価値を生み出す可能性があり、その新たな価値は既存の業務知識とノウハウの応用なので、プロフィットセンターの業務手順をソフトウェアとして開発する場合は、業務担当者自らソフトウェア開発に参画しなければならない。
 
これはシステム(ソフトウェア)に業務を合わせる事と同じである。
ただし、システム開発者側が業務手順を中心に設計する事が当たり前の大前提での話だが。
 
このように開発されたシステム(ソフトウェア)は、その会社にしか作れない付加価値を生み出すシステムとなるはずなので、システムを製品やサービスとして市場で販売できるはずである。
 
通販大手のAmazon.com が正にこれを実践している企業なのだが、ネット書店から始まったAmazonは自身が必要とするデータセンターや在庫管理の業務手順をAWSというなどの独立したサービスとして販売している。
本来は全ての企業がこのように、自社の業務知識や能力をシステム化して販売すべきなのだ。
 
これが全ての企業で実施されると、全ての企業はソフトウェア企業になり、必ず自社の業務知識や業務手順をパッケージソフトウェアやSaaSの形で販売している事になる。
そしてソフトウェア部門もプロフィットセンターと化す。
 

IT投資はプロフィットセンターへ集中する

 
以上のように、現在の日本企業はコストセンターの業務も自社開発して、IT投資予算を無駄に浪費しているが、コストセンターのシステムは既存のパッケージやSaaSをノンカスタムで安価に導入し、IT投資予算の無駄な浪費を節約すべきなのだ。
 
IT投資予算は利益を生む部門(プロフィットセンター)へ集中投資して、販売できるぐらいのソフトウェア開発を自社で行うべきであり、大事な付加価値を生む業務システムをSIerなどに丸投げ外注すべきではないのだ。
 
もちろん、ITシステム全てをIT企業ではない企業が全て自社だけで開発するのは不可能かも知れない。
しかし、開発の中心的役割は自社で行うべきで、自社で出来ない技術の提供だけSIerに依頼して開発して貰えば良い。
自社で開発できないミドルウェアやソフトウェア部品などの調達も必要になるだろうから、外注部分が完全に無くなるわけではないが、業務システムの設計は自社中心に行うべきである。
できれば開発も自社中心であるべきで、周辺モジュールやITインフラの整備などをITベンダーに依頼すべきだ。
(SIerに外注するな、という意味ではない)
 
現在の業務システム開発をSIerに丸投げにして、プロフィットセンターもコストセンターも関係無く、システムを外注で全て自社専用に開発するというやり方は、根本的に間違っているし、コストの無駄でしかない。
自社の付加価値もITによって生かす機会を放棄している。
 
業務をシステムに合わせる。
コストセンターはパッケージやSaaSをノンカスタムで導入する。
プロフィットセンターの業務は自社でシステム化して販売する。
 
日本企業にはこの視点が欠けているので、意識して欲しいと思う。
損しているのは企業自身なのだから。

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オッサンです。実務経験は Windows環境にて C#,VB.NET ,SQL Server T-SQL,Oracle PL/SQL,PostgreSQL,MariaDB。昔はDelphi,C,C++ など。 趣味はUbuntu,PHP,PostgreSQL,MariaDBかな ?基本無料のやつ。

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