雇用の流動性が必要になるのは役割分担が間違っているからではないか

2021年3月8日月曜日

DX システム業界問題

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SIer業界では長らく多重請負と偽装請負を含む技術者派遣労働問題が問題になってきた。

2015年に経産省がDXレポートを公表してから、政府レベルでこの問題が共有されており、政府も業界問題の改善と改革を必要と認識している事が明確になった。

DXレポートについてはかなり以前に記事にしたので読んで見て欲しい。

 

SIer業界の論理矛盾

その頃から、SIer関係者による「自己弁護」とも受け取れる言論が良く聞かれるようになった。

その内容を簡単に要約すると、

「システム内製化を推進する声が上がっているが、SIerは必要なものなので無くならない」

「システム開発業界ではITエンジニアの人材需要の増減が大きいので、解雇規制の強い日本ではSIerがITエンジニアを雇用してユーザー企業の案件を受注する事で需要の増減に対応している。これからも人材需要の増減は減らないのでSIerは必要である」

「日本は解雇規制が大きいので派遣労働は必要である」

主に「内製化の否定」と「解雇規制があるからSIerと派遣労働は必要だ」という意見に集約される。

これを読めば既に自己矛盾がある事が分かると思うが、「解雇規制が強いからITエンジニアを雇用する為にSIerという受け皿が必要だ」という論が成り立つなら、「解雇規制があるから派遣労働が必要」という論は成り立たない。

逆に「解雇規制があるから派遣労働が必要」論が成り立つなら、「ITエンジニアを雇用する為のSIer」は必要無い事になる。

 

仮に解雇規制が強すぎる事が理由なら、その対処法は「SIerがITエンジニアを雇用する」か「ITエンジニアを派遣労働者にする」かのどちらか一方で解消可能なはずだ。

派遣労働を肯定しながらSIerの存在の正当性を主張するのは論理的に無理筋だ。

 

ちなみにITエンジニアの大半を雇用しているのは末端の派遣会社や三次請け企業である。

元請けのSIerはそれほどITエンジニアを雇用していない。

「雇用の為にSIerが必要」という意見は事実の裏付けがない。ほとんど雇用していないのだから。

 

更にもう一つ突っ込ませて貰うと、SIer業界では「無期雇用の解雇規制を緩和しろ」という声が大きい。

それもSIerや派遣会社の経営者からその声が上がっている。

もし、SIerや派遣労働の存在正当性が「解雇規制が厳しすぎる」事にあるのならば、解雇規制を緩和する事は、SIerや派遣労働の存在正当性を失わせる事になるのではないかと思うが、この業界の人はこの自己矛盾に気がつかないのだろうか ?

 

この様にSIer業界の「自己弁護」とも受け取れる言論は「自己矛盾」だらけで、「苦笑」なしには聞いていられないものばかりだ。

 

法律の解雇規制にしても労働基準法と労働契約法に記載されている具体的解雇規制は「30日ルール」ぐらいしかなく、あとは司法判例任せのハッキリしない法規制となっている。

解雇規制は裁判所の判例によって運営されており、法律で十分にコントロールできる状況にない。

もっと早い段階で法律が解雇規制の主導権を握るべきだったと思うが「後の祭り」である。

今から司法権を立法府がどうやってコントロールするのか、その方法が想像できない。

日本は三権分立なので立法府と司法権は対等な権力を持つ。権力の内容が違うだけだ。

立法府が新しい緩和された解雇規制を法制化したとして、司法権が現在の解雇規制の判例を緩和しなければならない理由はない。

 

SIer業界の「日本は解雇規制が厳しすぎるから○○○○○○」の話は、自己矛盾もあり、解雇規制の法的実態から考えても、非現実的な話で意味のある話には聞こえない。

 

あと誤解の無いように言っておくが、私はフリーランスなので解雇規制とは何の関係もない。

 

SIerを無くせと言っている人は居ない

システム内製化を中心になって進めているのは経産省である。

後に、デジタル庁も加わると思う。

 

SIer業界の中では「全てのシステムを内製化するなんて不可能だ、SIerは必要だ」という反論を良く聞く。

しかし、少なくとも私は「システムを全て内製化して、システム外注を全て止めてSIerを無くせ」と言う主張を見たことがない。

この「SIerは必要だ」論は、存在すらしない「外注を全て止めてSIerを無くせ」論が、然も存在するかのように見せかけて、反論している「虚偽批判」だと思う。

経産省の主張と計画は、

「現在、ITエンジニアの7割がSIer企業に属しており、ユーザー企業に雇用されている者は3割程度に留まっている。

経産省は2025年までにこのバランスを5割対5割のバランスに移行させたい」

という内容である。

 

一般の企業を中心とした内製化の動きもこの経産省の計画に即したものと思われる。

 

経産省は「SIerを無くせ、外注を止めろ」とは言っていない。

「現在7割のシステム外注比率を5割まで落とし、内製化比率を5割に増加しよう」と言っているだけである。

 

世間でも「SIerを無くせ、外注を止めろ」などと言っている人間は私を含めて存在しない。

少なくとも私は見たことがない。

 

結局「SIerは必要だ」論は、経産省が進めるシステム内製化比率の向上を否定する為に、存在しない「SIer廃止論」をデッチ上げて、内製化論を否定するために作られた虚偽批判であり、虚偽批判することによってしか内製化推進を否定できない苦しい状況が見て取れる。

政策論的に経産省の計画の正当性が高い証拠でもある。

 

問題を露呈するIT業界と取り締まり強化する政府

SIer業界の多重請負構造については解説している人も多いので、知っている人も多いと思う。

SIer業界はユーザー企業のIT部門を頂点にしたピラミッド型の多重下請け構造になっており、主にユーザー企業から直受けする元請け(1次請け)、その下請けの二次請け、その下請けの三次受け、その下請けで人材を派遣するSES(派遣会社)というピラミッド構造になっている。

通常、元請けか二次請けが、ITコンサルや要求分析などを担当し要件定義を書いて二次請けに発注する。

二次請けは設計だけ行い、三次請けに開発を発注する。

三次請けは「人的レバレッジ」という経営管理を行っており、案件受注があるときだけ派遣のITエンジニアを雇い、開発作業をする。

開発作業は派遣ITエンジニアが主に進め、三次請けの正社員の数は少ない事が多い。

 

この体制は今、様々な問題を露呈している。

銀行のシステムのソースコードを末端エンジニアがGitHubで公開してしまったり、新型コロナウイルス対策の接触確認アプリ「COCOA(ココア)」で約4カ月の間、通知が来る条件に当てはまっていても、接触が通知されない不具合が放置されていた問題などが起こっている。

これらは多重請負の弊害が露呈したものだ。

 

ソースコードを公開したエンジニアと銀行との間には著作権譲渡の契約は無く、所属していた派遣会社は既に倒産しており、守秘義務などの効力は切れている。

このエンジニアの行為には違法性が無いらしい。

 

COCOA(ココア)についても多重請負の末端で開発されており、厚生労働省から三億で発注して、開発を担当している末端会社は5000万円で受注しているらしい。

多重請負が全て悪いとは思わないが、このアプリの開発者に十分な報酬が払われているようにも見えない。

品質管理も不十分だったのは事実だ。

https://biz-journal.jp/2021/02/post_207021.html

 

少し前にはベネッセコーポレーションから、システム開発担当の派遣SEから顧客情報の売却漏洩が起きて信用問題になった。

 

ニュースになっている範囲だけでも問題がポロポロ出てくるのだから、水面下ではもっと色々起きているだろう。

 

守秘義務や機密情報の保持、過剰な中間マージンの徴収に、末端派遣エンジニアへ正当な報酬が支払われず、情報売却益を稼ぐ者が現われセキュリティリスクを招く状況にもある。

 

私も業界の中をよく知るので、この業界のモラルハザードは良く知っている。

正直なところ、このような体制で、秩序を維持できると思う方がおかしいと思っている。

 

政府もフリーランスガイドラインを年度内に見直すそうだ。

 

IT業界は派遣エンジニアや常駐フリーランスへの依存率が高いので大きく影響を受けるだろう。

 

「同一労働同一賃金」「パワハラ禁止法」など政府の取り締まりは強化される一方で「解雇規制緩和」とは逆方向を向いているように見える。

政府の規制緩和は企業の参入障壁の緩和など、事業拡大の障害除去に限られており、雇用関連規制は強化されているように見える。

 

人材需要の増減が大きくなるのは役割分担が間違っているから

「システム開発業界ではITエンジニアの人材需要の増減が大きいので、解雇規制の強い日本ではSIerがITエンジニアを雇用してユーザー企業の案件を受注する事で需要の増減に対応している。これからも人材需要の増減は減らないのでSIerは必要である」

と主張する人々は、多重請負体制を肯定し、依存している業者の人々である。

では、この多重請負体制は「正しい体制」と言えるのだろうか。

この答えは明確には出せないと思う。

ただ、システム開発の役割分担のやり方として、ほとんどこのやり方しか存在しないのは異常だと思う。

 

ピラミッドを横に切り分けるSIerの役割分担

現在のSIer業界では上流工程・下流工程を縦の座標として、業務設計・要件定義・設計・開発・テストとウォーターフォールの開発工程を、横に切り分けるように、元請けから三次請けまで役割分担している。

ユーザーが業務設計を、一次請けが要求分析・要件定義を、二次請けが基本設計を、三次請けが詳細設計を、四次請けや派遣エンジニアが開発を、在宅のアルバイトがテストを、という具合に多重請負のピラミッドを横に切り分けて、分業開発する役割分担をしている。

 

このやり方は、欠陥が多い。

まず、それぞれの仕事に対する品質管理が雑になる。

上流工程の要件定義や基本設計に欠陥があっても、元請けや二次請けが責任を取ることは少ない。

だいたい下流工程の三次請けが品質の責任を取らされる。

基本設計にバグがあっても、改修するのは三次請けか四次請けの開発担当のプログラマーである。

だいたいプログラマーが設計書の不具合を修正しながら開発している。

不具合を出した者、ミスをした者が責任を取らない体制になっている。

すべて下請けに押しつける。

だから下流工程はデスマーチになりがちになる。

上流工程の品質がアテにならないからだ。

 

また、同じ機能を作る担当者が上流から下流に何人にも分裂してしまうのも問題である。

理想から言えば、一つの機能は同じ人間が、要件の確認から設計開発テストまで一貫して取り組むべきだ。

要件の確認・設計・開発・テストをそれぞれ別々の人間が担当していると、それぞれの工程を引き渡す時に説明しなければならない。

膨大な機能になると全ての工程でこの「説明」が必要になる。

この同じ機能内での説明は無駄な作業でしかない。

無駄に時間と人件費を浪費しているだけだ。

 

私は以前からこの役割分担のやり方は間違っていると思っていた。

 

役割分担は機能ごとに縦に切り分けるべき

複雑なシステム開発の役割分担は、それぞれの機能ごとにピラミッドを縦に切り分けて、それぞれの機能単位で外注して、要件・設計・開発・テストなどの工程は、その機能を受託した会社の中で一貫して同じ者が担うのが良いと思う。

経産省のDXレポートでも、「ITベンダーはマイクロサービスを開発提供して、契約形態はプロフィットシェアで行う」体制への改革を目指している。

DXレポートで描かれたユーザー企業とITベンダーの役割分担のやり方は、昔から一部の人々が提唱していたやり方を纏めたもので、私もこのやり方に賛成である。

 

要するに簡単に説明すると、ITベンダーは「会計処理」や「在庫管理」「人員管理」などある程度抽象化された機能のマイクロサービスやソフトウェア部品などを開発して、一般市場に公開販売し、ユーザー企業はそれらのマイクロサービスやソフトウェア部品などを複数各社から購入して組み立てて、自社システムを安価に開発する。

そういう体制を目指しているわけだ。

マイクロサービスやソフトウェア部品などをITベンダーが提供するにあたっては、ある程度カスタマイズや一部機能はユーザー企業専用に開発する事にもなるだろうが、既にある程度完成しているソフトウェアを販売するので、ユーザー案件ごとに一から開発するより負担は少なく、人材を案件ごとにかき集めてくる必要もない。

最上流工程はユーザー企業自身が行い、そのシステム開発は極力既存のマイクロサービスやソフトウェア部品などを組み立てて安価に短期間で開発できるようにするわけだ。

ITベンダーの仕事はユーザー企業の案件ごとにインターフェイス部分のカスタマイズや、他の部品とのすり合わせ機能の開発が主になる。

一つのマイクロサービスやソフトウェア部品などを複数のユーザー企業に販売できるので利益率は高くなる。

 

また、開発は現在一般のパッケージソフトやSaaSなどと同じで、バージョンアップ周期ごとのアジャイル開発に近い開発体制になるだろうから、人材需要の増減は少なくITエンジニアの出入りは少なくて済む。

つまり雇用の流動性は必ずしも必要無い。

 

経産省の考えるこのやり方は、中々良いアイデアだと思う。

しかし、SIer業界の人々には何故か評判が良くない。

話題にすらしたくないように見える。

理由は良く分からない。

 

人材需要の増減が大きくなるのは、「横に切り分ける役割分担」のやり方が間違っているからであり、経産省案のように「縦に機能ごとに切り分ける役割分担」なら、ユーザー案件ごとに一々ITエンジニアを集めて、終わったら解散するような雑な雇用管理をする必要はない。

 

また、経産省は開発手法にもこれまでのウォーターフォール開発を止めてアジャイル開発の導入をすることを推奨している。

繰り返しになるが、契約形態としてはこれまでの請負契約ではなく、利益の数パーセントをITベンダーに支払うプロフィットシェアを推奨している。

私は、売上の数パーセントを支払うレベニューシェアの方が良いと思うが細かい話は省略する。

 

人材需要の増減が起きるもう一つの理由はウォーターフォール開発が原因である。

この手法は上流の設計工程は必要な人員が少なく、下流の開発になると多くのITエンジニアが必要になる。

安定的雇用に相応しくない開発手法だ。

仕様変更も出来ない。

ユーザー企業の多くは無理矢理ITベンダーに仕様変更を引き受けさせているが、ウォーターフォールの請負契約では法的にも、開発手法的にも本来仕様変更はできないのだ。

公正取引委員会の取り締まりが強化されたら、処罰対象になるかも知れない。

 

アジャイル開発とプロフィットシェア(レベニューシェア)契約なら、イテレーション周期での仕様変更が可能である。

また、アジャイル開発の場合は一週間から一ヶ月ほどのイテレーション期間の間に、要件・設計・開発・テスト・リリースが行われるので、ITエンジニアの人員需要が大きく変動しない。

 

アジャイル開発は安定雇用に相応しい開発手法であり、仕様変更などにも法的に対応し易い。

 

マイクロサービス・プロフィットシェア(レベニューシェア)・アジャイル開発の組み合わせを推奨する経産省案は、現在の課題だらけのIT業界の問題を建設的に解消する良案と言える。

 

頑なに現状維持に拘る人々

今の「横に切り分ける役割分担」とウォーターフォールの請負契約が、問題だらけで改革が必要なのは、ある程度分かったかと思う。

 

しかし、これだけ問題が露呈していても、受託開発を中心としたSIer業界の商慣習を頑なに維持しようとする人々が沢山いる。

 

私は経産省案は良案だと思うので、積極的に経産省案の実現に協力すべきだと思うが、世間的には経産省案の存在自体を無視しようとする保守的な現状維持派が多い。

正直なところ、彼らが何故現状維持を目指すのか理解できない。

 

先に説明したように経産省は受託開発やSIerを廃止しようとしているわけではない。

 

受託開発については、将来も全体の5割は受託開発になると想定しているので、SIer廃止など計画に存在しない。

現在は7割が受託開発である。

 

ITベンダーはマイクロサービスの提供業者として変化して存続する事を想定しているので、既存のITベンダーを無くす計画にもなっていない。

 

頑なにSIer業界の商慣習を維持しようとする人々は、経産省案の何を拒否しているのか良く分からないのが現状だ。

既にデジタル庁の設立により政府官公庁のシステムも政府が内製化するか、設計レベルまで政府公務員が参画する事になるので、従来の多重請負のピラミッドは維持できないと思う。

 

また、アジャイル開発になったら多重請負のピラミッドで開発するのは無理だ。

短期のイテレーション期間のなかで要件・設計・開発・テスト・リリースを行うので、一次請けから四次請けまで分かれていたら多重伝言ゲームになり短期間にコミニュケーションが取れない。

現実的にも政治的にもこれまでの商慣習を維持するのは無理だろう。

 

 

しかし、保守的な人々の闘争は続く。

正直、私はこの衝突にあまり関与したくない。

 

適当に距離を取ろうと思う。

 

どうせいつか変わるのだから。

 

 

最後までお読み頂きありがとうございます。

元々、こういうテーマの記事を書くためにこのブログを始めたのに、しばらく初心を忘れていました。

今後はこういう話をもっと書こうと思います。

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オッサンです。実務経験は Windows環境にて C#,VB.NET ,SQL Server T-SQL,Oracle PL/SQL,PostgreSQL,MariaDB。昔はDelphi,C,C++ など。 趣味はUbuntu,PHP,PostgreSQL,MariaDBかな ?基本無料のやつ。

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