「2050年に炭酸ガス排出量実質ゼロ」を巡る世論の誤解

2021年1月18日月曜日

経済政策 時事

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昨年、管総理は所信表明演説で、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指す方針を発表した。

 

温室効果ガス 50年までに実質ゼロ目指す方針で調整

https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/46941.html

 

その後2020年12月25日には経産省より「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が公表された。

 

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012.html

 

PDF資料1

https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012-1.pdf

 

PDF資料2

https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012-2.pdf

 

この資料には2050年までの日本の産業界におけるエネルギー計画が詳細に記述されている。

 

世間ではエネルギー政策をめぐり、原発推進派と化石燃料肯定派と再生可能エネルギー推進派・環境左翼などが議論を戦わせている。

 

その議論を聞いていると、どうも政府のエネルギー計画に対する大きな誤解があるようで、先の経産省の資料を基に、その誤解を解く記事を書きたいと思う。

 

2050年には炭酸ガスの排出が禁じられるのか ?

結論から言えば、経産省の資料では2050年までに炭酸ガスの排出をゼロにする計画になっていない。

2050年になってもHV系ガソリン車は残っているだろうし、火力発電も総発電量の二割から三割ほど維持することになる。

船なども内燃機関は使用する。

それどころかバイオ燃料の拡大により、それを使用した内燃機関を活用する計画もあるので、内燃機関が消滅するわけではない。

 

経産省の資料は情報量が多いので、この記事では「炭酸ガス排出量実質ゼロ」に関する誤解の解消についてのみ記述したいと思う。

 

HV系ガソリン車を無くす計画は存在しない

政府の計画では2035年ごろまでに全ての車両を「電動車」にして純粋な内燃機関は廃止することになっている。

しかし、この「電動車」にはEVの他に、FCV(燃料電池車)や、プリウスのようなHV(ハイブリッド)車両も含まれる。

HVは内燃機関と電力モーターの組み合わせで稼働する車両なので、ガソリン車やディーゼル車両が無くなるわけではない。

経産省の資料を見る限り、2050年までにHV系内燃機関車両を無くす計画は見当たらない。

EVやFCVへの投資を強化して「軽自動車や商用車等の、電気自動車や燃料電池自動車への転換について、 特段の対策を講じていく」とは書かれているが、HV系内燃機関車両を無くすとは書かれていない。

全車両に占めるEVやFCVの比率を向上させようという意欲は伝わってくるが、HV系内燃機関車両を禁じるような、全体主義的・権威主義的な印象は感じられない。

そもそも現実的にHV系内燃機関車両を無くすなど不可能だろうし、

そんな計画もない、電動車を広めていくと言っているだけだ。

 

火力発電を無くす計画もない

確かに以前から火力発電の比率を減少させる計画はあったし、今回の経産省の計画でも総発電量に占める火力発電の比率を2050年までに大幅に減少させる計画になっている。

 

しかし資料には「全ての電力需要を100%再エネで賄うことは困難と考えることが現実的」と書かれている。

2050年の目標発電比率は、

「原子力・CO2回収前提の火力発電30~40%程度」

再生可能エネルギーによる目標発電比率は、50~60%と書かれている。

 

2030年目標では原子力発電の目標が21%~23%程度となっていたので、それを差し引くと、CO2回収火力発電の比率は10%~30%といったところだろう。

 

2050年の目標発電比率 (2030年目標との差分から推計)

発電方法総発電量に対する比率
原子力 (2030年目標)21%~23%
CO2回収型の火力発電 (原発と差分推計)10%~30%
再生可能エネルギー50~60%

 

元々、現在の火力発電の比率は83%ほどになっており、多すぎる。

中東やシーレーンに何かあったら電力が停止してしまう。

 

火力発電は現在より大幅に減らす事になるが、無くなるわけではないし、無くす事など不可能だ。

 

原発と火力と再生可能エネルギーへの均等な分散

資源エネルギー庁のサイトなどを見ると色々解説されている。

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/

 

元々、日本はエネルギーミックスという政策を採用している。

これは「社会全体に供給する電気を、さまざまな発電方法を組み合わせてまかなうこと」を言う。

火力発電、原子力発電、水力発電、太陽光発電など様々な発電手段を用い、特定の発電手段が使用できなくなったときに、他の発電手段で電力を賄うことでエネルギー安全保障を満たすエネルギー政策である。

 

また、日本のエネルギー自給率は8%ほどしかなく、原発の大半が停止している現在では83%のエネルギーを化石燃料に依存している。

これでは中東で戦争でも起こればエネルギーが停止しかねない。

 

再生可能エネルギーに注力するのは自給率を高めるため

資源エネルギー庁サイトで再生可能エネルギーの解説を読むと「東日本大震災後、エネルギー自給率は10%を下回っており、エネルギー安定供給の観点から、この改善を図っていくことが重要です。再生可能エネルギーは国産のエネルギー源であるため、エネルギー自給率の改善にも寄与することができます」と書かれている。

https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/outline/index.html

 

言われてみれば、水力発電・太陽電池・風力発電・地熱発電・バイオマスなど再生可能エネルギーは全て国産エネルギーである。

仮に戦争などで石油・石炭や天然ガスなどが、十分に輸入できなくなっても、再生可能エネルギーなら国内生産可能だ。

安全保障の面からみれば、多少割高でも使用する価値はあるかも知れない。

 

経産省が再生可能エネルギーを推進する背景には「炭酸ガスの排出量削減」よりも「エネルギー自給率の向上」が思惑としてあると思う。

原発もほとんど国産エネルギーに近いので、

2050年の目標発電比率のエネルギー自給率の割合は、71%~83% ということになる。

ほとんどのエネルギーを国産エネルギーにする事が、

「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロ」の裏の目標となっていることが分る。

 

炭酸ガス排出削減より、炭酸ガス回収手段の方が注目点

経産省の資料を見ると、炭酸ガス排出量削減の他に「炭酸ガスの回収」についての計画が、もう一つの注目点だ。

「ゼロエミッション困難な排出源をカバーするネガティブエミッションとして、 農地、森林・木材、海洋における炭素の長期・大量貯蔵を実現」

「バイオジェット燃料等の供給拡大」

など炭酸ガスを回収して貯蔵する他、燃料などに活用する計画もある。

 

特に「⑪カーボンリサイクル産業」の章には、大きく四種類の炭酸ガス回収に繋がる技術開発投資計画が記載されている。

カーボンリサイクル手段内容
コンクリートCO2を吸収して造るコンクリート販路拡大・コスト低減
公共調達を拡大。
建築物に用途拡大。
民間部門での需要拡大を検討。
バイオ燃料藻類の培養によるバイオ燃料
大規模実証を通じたコスト低減、供給拡大。
バイオジェット燃料を既存のジェット燃料と同等まで低減。他国に先駆けて2030年頃には実用化。
化成品人工光合成によるプラスチック原料
光触媒を用いて太陽光によって水から水素を分離し、水素とCO2を組み合わせたプラスチック原料を製造。
変換効率の高い光触媒の開発を加速、実用化。
2030年に、変換効率の高い光触媒を開発、製造コスト2割減を目指す。
分離回収設備発電所からの高濃度CO2の分離回収設備は、既に生産段階。

市場規模として、2030年時点で、世界で約6兆円/年、2050年には約10兆円/年にまで拡大を見込む。
2050年に、世界の分離回収市場で年間10兆円の3割シェア実現(約25億CO2トンに相当)を目指す。

 

つまり、「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロ」の計画には「炭酸ガスの排出量を減らす」計画以外に、「大気中や発電時排出される炭酸ガスを資源として回収して活用する」計画が含まれている事が分かる。

内容を見る限り、回収する炭酸ガスの量はバカにできない量となる。

 

2050年までに炭酸ガスの排出と回収の収支をゼロにする

ここまで読んで分かると思うが、「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロ」にする計画とは、「炭酸ガスを排出しない」計画ではなく、「炭酸ガスの排出量と回収量を一致させる」計画であることが分かると思う。

 

HV系ガソリン車は2050年も走っているだろう。

10%から30%の発電手段は炭酸ガス分離回収型の火力発電を使用する。

バイオ燃料を生成するので、それを活用するエンジンもタービンも使用する。

 

他にも再生可能エネルギーから生成した水素からメタンやアンモニアを合成し、燃料として活用する計画もある。

 

つまり2050年になっても内燃機関や火力発電は無くならないし、炭酸ガスはある程度排出するのである。

ただ、排出した炭酸ガスと同量の炭酸ガスを回収するということだ。

 

世間では「炭酸ガスを排出しない」「ガソリン車を無くす」計画と誤解した意見が流布され、ネガティブな議論が戦わされている。

無駄な討論するよりも、事実関係の確認をすべきだろう。

 

事実誤認の感情的討論、それこそ、精神エネルギーの無駄使いである。

 

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オッサンです。実務経験は Windows環境にて C#,VB.NET ,SQL Server T-SQL,Oracle PL/SQL,PostgreSQL,MariaDB。昔はDelphi,C,C++ など。 趣味はUbuntu,PHP,PostgreSQL,MariaDBかな ?基本無料のやつ。

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