感染症対策と日本経済の処方箋 -「日本経済再起動」ブックレビュー

2020年12月4日金曜日

経済政策 時事 政治

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2020年3月ごろから世界では感染症のパンデミックで経済が大打撃を受けている。

世界の先進国ではこの経済対策として大規模な金融緩和(新規通貨の発行)と財政出動(国債発行)が行われた。

今まで経済政策に興味が無かった人達は、日本政府が突然57兆円もの新規国債を発行して定額給付金や100万円の持続化給付金を配布して、財政は大丈夫なのかと疑問に思っている人も多いと思う。

 

今月の1日に、リフレ派と呼ばれる二人の経済学者の共著で「日本経済再起動」という書籍が出版された。

著者は嘉悦大学教授の高橋洋一氏と、上武大学教授の田中秀臣氏である。

高橋洋一氏は安倍政権時代から内閣官房参与として安倍総理のブレーンを務めている。

田中秀臣氏は以前から、アベノミクスの経済学的解説をラジオやネットメディアやSNSを通じて行っている。

管政権下では自民党の一部議員で設立されている経世済民研究会の経済学の講師を務めており、菅義偉総理に要望書を提出する時も立ち会っている。

 

私は12月1日に「日本経済再起動」が出版されると同時に電子書籍版を購入した。

この本は紙媒体と電子書籍版が同時に出版されたので、購入しやすかった。

一般の書籍は電子書籍版が少し遅れるので、結構珍しいと思う。

拡散を急いでいるのかも知れない。

 

書籍の内容は、これまでリフレ派を支持して来た人にとっては、既知の物も多いが、私も初めて知る衝撃的な内容もあった。

衝撃的なのは主に感染症と経済の関係の解説である。

 

今回は、この「日本経済再起動」のブックレビューを書いて書籍の紹介をしたいと思う。

自分に合う内容か、この解説を見て判断したら良いと思う。

 

「日本経済再起動」ブックレビュー

 

第一章、アベノミクスからスガノミクスへ

安倍晋三氏がリフレ政策と接点を持ち、第二次安倍政権でリフレ政策を採用するまでの経緯について高橋洋一氏視点で解説している。

財務省を御することの難しさや、財務省がどのようにマスメディアや財界をコントロールしているのかの解説。

以外に人間的手段を使っていて強権を使って強制するようなマネはしていないところが意外だった。

「インフレ目標2%未達だからアベノミクスは失敗だ」という意見への反論と、インフレ目標政策の解説。

管義偉総理の規制改革思考や、デジタル庁を中心とした構造改革の方向性についての予想。

歳入庁的なシステムによる歳入統一管理の可能性についての言及。

ポール・ミルグロム教授とロバート・ウィルソン教授がノーベル経済学賞を受賞した「電波オークション」に関する理論の紹介と、地上波テレビの電波オークション化についての、電波資源の再割り当て案などの紹介。

「管総理はマクロ重視を表向き言わないだけ」の節では、一般の人はマクロなんて関心が無いし新聞ネタとしても受けない。 だから管さんはデジタル庁や携帯料金値下げなど目立つ政策を外向けに言っている。 と解説されており、政治家が考えているママの発言をするわけでは無い事を印象づける。

 

第二章、日本のコロナ経済対策はうまくいった!

この章は田中秀臣氏が中心になって解説している。

世界では、第一波が収束したあとで、感染症対策について研究が進んでおり、ロックダウンの効果についても第一波のロックダウンの結果を基に検証されている。

この章では、アメリカの経済学者デービッド・バカイと公衆衛生学の学者が組んで書いた論文の内容を簡潔に紹介している。 この論文ではロックダウンだけした場合のケースと、「三密回避やソーシャル・ディスタンス」などの非経済的介入だけ行った場合に、第一波と第二波の感染死者数と失業率のシミュレーション結果が掲載されている。

シミュレーションではロックダウンによる感染抑制の効果は第一波では、非経済的介入と変わりが無いが、第二波ではロックダウンに感染抑制効果はほとんど無く失業率も15%以上になるのに対し、非経済的介入の方が大きな感染抑制効果があり失業率も6%程度に抑えられるという報告が行われているという。

 

欧米ではこの論文のような認識が広まっており、感染症対策としてのロックダウンには否定的な見解に変わりつつあるらしい。

 

私はこの章を読んだときかなり衝撃を受けた。

現在、冬の日本では第三波が訪れているわりには、政府が緊急事態宣言などの経済自粛に消極的なのは、この情報が日本政府にも入っているからではないか、と私は思った。

 

田中秀臣氏は、日本政府はあまり強行なロックダウンを行わなかった点や、三密回避・ソーシャルディスタンス・マスク着用など非経済的介入を積極的に行ったことと、第二次補正予算までの積極財政政策と融資支援などを総合して、日本政府の経済対策は成功したと評価している。

但し「コロナ対策の成果は不明」とも言っている。 まだ、終わっていないので当然だと思う。

 

後半の高橋洋一氏との対談では、今後の経済対策として「期待インフレ」を形成する事の重要性を説いている。

 

第三章、MMTなるものは、いかにデタラメか

この章では田中秀臣氏がMMT批判を展開しているのだが、その説明としてリフレ政策とMMTの違いについて解説している。

 

このリフレ政策の解説が、簡単なリフレ派経済学入門になっており、アベノミクスの採用したリフレ政策がどのような政策なのか、これまでのアベノミクスを理解できない人にも理解できるように解説している。

 

MMT批判の部分は閑話ぐらいにして楽しんで、リフレ派経済学入門の部分を重点的に読んだ方が面白いと思う。

 

田中秀臣氏の解説は以下のような感じで進められている。

 

経済学の歴史では、最初に需要と供給を理論化した「古典派経済学」が登場した。

しかし、古典派では失業を説明できないので、財・サービス・労働の需要と供給に加え、「債券」の需要と供給を計算に入れた「新古典派経済学」が登場した。

「新古典派経済学」でも物余りや失業の説明が不十分だったのでケインズが「貨幣市場」を加えて「ケインズ経済学」が生まれ、これが「ワルラスの法則」に繋がっていく。

「ケインズ経済学」でも貯蓄過剰により貨幣不足が解消できないことから、これに「期待インフレ率」という将来の貨幣価値に対する人々の予測が、預金から投資や消費に貨幣が回る事に重要だと考えたのが、クルーグマンを代表とするリフレ派だそうだ。

 

「貨幣」の定義や「セーの法則」「インフレ目標」など必要な用語の簡潔な解説も行われている。

 

何も知らない状態でアベノミクスの基礎を理解するには良い解説だと思う。

 

ちなみにMMTに対する批判は以前とあまり変わっていない。

MMT批判は最初は数式などの解釈の間違いの指摘や、金融政策への無関心な点の問題など指摘しているが、後半はほぼ笑い話のような展開になっている。

 

第四章、コロナで苦しむ人たちをいかに経済で救うか?

緊縮政策と刺激政策(反緊縮)の違いの解説から始まり、緊縮政策の有害さとアベノミクスがそれを離脱した功績について評論している。 続いて、緊縮政策で失業率が増加する事と、失業率と自殺率の相関について解説している。 最後に失業率を下げるには財政政策より金融政策のほうが、政治的にも困難が少ないと主張している。

 

第五章、スガノミクスが力を入れる構造改革

スガノミクスはアベノミクスの継承だが、管総理の個性が発揮される部分に関しては、ミクロ経済政策の構造改革になるだろうと評価している。

構造改革は供給側の潜在GDPを上げていく政策で、需要側のGDPが下回っている状況での経済政策としては不適切としている。

またアトキンソン流の中小企業淘汰論についても同じ文脈で批判しており、 生産性という概念の誤解についても解説している。

また、構造改革論が出てくるたびに出てくる竹中平蔵氏への非現実的批判についても、批判的に解説している。 竹中平蔵氏に大きな権力は無いし、悪者役で過大評価しすぎであると。

BIと年金の原理の違い、香港の後を継ぐ国際金融都市に関する構造改革の話題。

地銀再編や中小企業再編などでは「アトキンソン流の淘汰政策はやらないだろう」など。 大阪都構想を含め、地方分権にマクロ経済効果は無いという話。

構造改革よりマクロ経済施策の恩恵が大きい、で閉められている。

 

おわりに、先日管総理に提出した、経世済民研究会の要望書が掲載されている。

 

お勧めの読者層

アベノミクスによって雇用が増加したことは知っていても、なぜ雇用が増加したのか分からない人。

そもそもアベノミクスとは何をやっていたのか理解できていない人。

感染症対策とそれに伴う経済対策で国債を大量発行したが、国債金利やハイパーインフレなどは起きないのか心配な人。

「国債の信認が失われる」

「国債発行など将来世代へのツケ回しだ」

「国債金利が高騰して日本政府は破産する」

などのデマや間違いを今でも信じている人。

 

これらの政治的不安は全て、マクロ経済政策についての無知から生じているので、この書籍を読んで経済政策についての最低限の理解を得れば、経済政策的不安は解消します。

 

今までアベノミクスの理解について行けなかった人にこそお勧めです。

 

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オッサンです。実務経験は Windows環境にて C#,VB.NET ,SQL Server T-SQL,Oracle PL/SQL,PostgreSQL,MariaDB。昔はDelphi,C,C++ など。 趣味はUbuntu,PHP,PostgreSQL,MariaDBかな ?基本無料のやつ。

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