労働生産性についての嘘に騙されない為のウンチク

2020年9月12日土曜日

経済政策

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 「生産性」という言葉ぐらいデタラメな定義で誤用され、人々を混乱させてきた言葉もないのではないだろうか?


「同性愛者は子供を作らないので生産性が低いから、同性愛者に投資するぐらいなら子育てへの投資に回した方が良い」

「日本は労働生産性が低いから解雇規制を緩和して雇用流動性を高めれば、生産性が上がる」

「日本の労働生産性が低いのは労働時間が長いからで、残業規制で労働時間を縮小すれば生産性が上がる」

「日本の労働生産性が低いのは、生産性の低い中小企業が多いからで、中小企業の統廃合により数を減らして規模を拡大すれば生産性が上がる」

「スーパーのレジ打ちが二倍の早さで仕事をすると生産性は上がるのか、それとも下がるのか」

これらの話について生産性の数式で考え直してみよう。

生産性とは


生産性とは「投入した単位労働力によって生み出された価値の量」だ。

生産性=「生み出された価値の量」÷「単位労働力」の量


単位労働力には「労働者一人の労働力」を使用することが多い。
高い精度を求めるなら「労働者一人の単位時間あたりの労働力」にすべきだと思うが、計算が複雑になるのと労働時間の正確なデータが揃わない点を理由に単位時間は無視しているのだろう。

単位時間というのは一時間でも八時間でも良いが「決まった労働時間」で投入した労働資源の量を揃えるということだ。


「生み出された価値」には用途に応じて様々な値を入れる事ができる。
売り上げ、利益、所得、生産物の量、処理した顧客の数など、生産性を測りたい人の目的に添った値を入れる。

投入した労働力あたりの生産量を知りたければ「生産物の量」を代入する。

顧客の回転数を知りたければ「処理した顧客の数」を入れる。

通常よく使われる生産性は「生み出された価値」に「利益」か「所得」を代入する。

「利益」は「付加価値」とも言い表される。

店の労働者一人あたりの利益を知りたければ、
付加価値生産性=利益÷労働者の人数
という式で算出する。
(付加価値生産性は正確には付加価値労働生産性と呼ぶが、ここでは省略する)

店の労働者一人あたりの所得を知りたければ、
労働生産性=従業員全ての所得の合計÷従業員の人数
という式で算出する。

従業員には経営者も含まれる。
株主は含まれない。
社長が株主なら社長の給料は所得に含まれる。
配当や株価変動利益は含まない。


特定の店舗や企業の付加価値生産性や労働生産性の事を、ここでは「ミクロ生産性」と暫定的に呼ぶ。

国際指標などでよく使われる労働生産性は、
労働生産性 = GDP ÷ 国民の人口
あるいは、
労働生産性 = GDP ÷ 労働人口や就業者数
で算出したものだ。

分子は全てGDPになる。

これらは国家の生産性を表した指標である。
これを暫定的に「マクロ生産性」と呼ぶ。

ミクロ生産性の性質


企業の場合、歳入と歳出の差が利益になる。
同じ売上なら経費を減らせば利益は増える。

経費には従業員の賃金も含まれる。
賃金は所得である。

これは同じ売上なら賃金を下げれば付加価値生産性は上がり、労働生産性は下がる事を意味する。

逆に同じ売上で賃金を上げれば労働生産性は上がるが、付加価値生産性は下がる。

企業のようなミクロの存在では、付加価値生産性と、労働生産性は逆の性質を持つ。

「スーパーのレジ打ちが二倍の早さで仕事をすると生産性は上がるのか、それとも下がるのか」
という問いの答えは、それぞれの生産性では逆の結果になる。

レジ打ちが二倍の早さで仕事をすれば、賃金歳出が同じで売上が増えるので付加価値生産性は上がる。
従業員の所得は変わらないので労働生産性は変わらない。

客数が限られていれば、従業員を半分に減らして、同じ売上を維持できるので、やはり付加価値生産性は上がる。

付加価値生産性=利益÷労働者の人数

従業員が半分になり賃金総額も半分になるので、労働生産性は変わらない。
しかし、クビにした元従業員を労働者に含めて計算すると、労働生産性は下がる。

労働生産性 = 従業員全ての所得の合計 ÷ 従業員の人数(or 労働者の人数

ミクロ生産性では付加価値生産性と労働生産性は互いに相反する性質を持つ。
(労働生産性には物的労働生産性や付加価値労働生産性など様々な種類があるので、言葉の定義はその都度確認する事)

GDP三面等価の原則


企業のようなミクロな存在の中では利益と賃金、付加価値と所得は互いに相反する性質を持つ。

しかしこれがGDPのような国家単位のマクロな存在になると、異なる性質を示す。

マクロな総量では付加価値と所得と消費の量は同じになる。

国家全体で家計・企業・政府が消費をすると、その対価を払う。
その対価は家計・企業・政府の売上になる。
売上は経費と利益の和である。
経費は原材料や部品やサービスの対価として支払われる。
部品などの対価を受け取る企業にとって、その対価は売上である。
商品は誰かが作った部品や原材料などの総和である。
したがってマクロでは、売上はその構成部品や原材料メーカーの利益の合計になる。
つまり、この売上は利益(付加価値)の合計と同じになる。

最初の消費の対価は利益(付加価値)の合計と同じとなる。

また、利益はそこで働く従業員やオーナーの報酬として支払われる。
徴税された分も公務員や政治家の報酬になるので、全て誰かの報酬として支払われる。
この報酬は「所得」だ。

利益(付加価値)の合計は所得の合計と同じになる。

消費の合計 = 利益(付加価値)の合計 = 所得の合計

このマクロの性質を「GDP三面等価の原則」と呼ぶ。

マクロ生産性の性質


GDP三面等価の原則が成り立つなら、付加価値の総量と所得の総量は同じであり、マクロでは付加価値生産性と労働生産性は同じ値になる。

従ってマクロ生産性では付加価値生産性と労働生産性を区別する必要がない。

マクロでは「労働生産性」という言葉の方を良く使うが、この場合は「付加価値生産性」と同じものを意味している。

需要の総量と、供給の総量


国民の必要と購買欲の事を「需要」と呼び、その必要と購買欲で求められる「物やサービス」を作り提供する事を「供給」と呼ぶ。
需要の内、消費に使う資金の裏付けのある需要の事を「有効需要」と呼ぶ。

GDP(Gross Domestic Product)は日本語では「国内総生産」と呼ぶ。
国内総生産と聞くと「供給」の総量のように思えるが、実際は「需要」の総量である。

「供給」の総量は「潜在GDP」という別の指標で表す。

作った物が全て売れるとは限らないので、総供給量と総需要量は同じにはならない。

通常は、潜在GDP(供給)を、GDP(需要)が超えていれば、インフレを起こす圧力がかかる。
物やサービスが不足するからだ。
労働者も不足する。

逆に、GDP(需要)を、潜在GDP(供給)が超えていれば、デフレを起こす圧力がかかる。
物やサービスが余るからだ。
労働者も余る。

マクロ生産性はGDP(総需要量)の方を見る。

労働生産性 = GDP ÷ 人口
または、
労働生産性 = GDP ÷ 労働人口や就業者数

「日本の労働生産性」という言葉はこれの事である。

「日本は労働生産性が低いから、生産能力を向上させなければいけない」系の意見が間違っているのが分かるだろうか ?
「総需要量 ÷ 労働人口」が労働生産性なのだから、労働生産性を増やしたいのならば、総需要量(GDP)を増やすべきなのだ。
生産能力を向上させても労働生産性は向上しない。


ちなみに、供給量を労働者数で除したものを「物的労働生産性」と呼ぶ。

物的労働生産性 = 供給量 ÷ 労働者数

マクロなら、
物的労働生産性 = 潜在GDP ÷ 労働人口や就業者数
となる。

生産能力を向上させると物的労働生産性は上がる。

しかし、通常は国家の生産性の話で登場する生産性はGDPで算出した労働生産性の方である。

生産性の話を聞くときは、それが需要の話か、供給の話かを意識して聞くと、嘘を見抜くことができる。

世間の生産性の話を検証してみる


日本は労働生産性が低いから、生産能力を向上させなければ」系の話


「日本の労働生産性が低いのは、生産性の低い中小企業が多いからで、中小企業の統廃合により数を減らして規模を拡大すれば生産性が上がる」
「日本の労働生産性が低いのは労働時間が長いからで、残業規制で労働時間を縮小すれば生産性が上がる」
「日本は労働生産性が低いから解雇規制を緩和して雇用流動性を高めれば、生産性が上がる」

この三つの話は全て「供給」能力を向上させる事で労働生産性を上げようとする話である。
先に説明したように、国家の労働生産性はGDP(需要)で算出するので、いくら「供給」能力を向上させても需要が増えるわけではないので、労働生産性は上がらない。

労働生産性を上げたければ需要を増やすべきで、消費者の可処分所得を増やして有効需要を増やし、消費を拡大すれば労働生産性が上がる。

話がまったくアベコベである。


「日本の労働生産性が低いのは、○○が無いからだ」系


「日本の労働生産性が低いのは、ITへの投資が不足しているからだ」
「日本の労働生産性が低いのは、日本人が合理性を憎んでいるからだ」
「日本の労働生産性が低いのは、日本の教育投資が不足しているからだ」
「日本の労働生産性が低いのは、年功序列で終身雇用だからだ」
「日本の労働生産性が低いのは、役割分担が不明確だからだ」
「日本の労働生産性が低いのは、残業が多いからだ」

これらも先の例と同じで、全て「供給」能力を向上させる事で労働生産性を上げようとする話である。
労働生産性はGDP(需要)で算出するので、いくら「供給」能力を向上させても需要が増えるわけではない。

労働生産性を上げたければ需要(消費)を増やすべきです。

「日本の労働生産性が低いのは、給料が安いからだ」


これを言っている人は残念ながら皆無であるが、正解はこれである。

労働者の給料が上がれば、労働者の可処分所得が上がる。
可処分所得が上がれば、消費が増える。
全国で消費が増えればGDPが増える。
GDPは消費の合計でもあるのだから。

労働生産性 = GDP ÷ 労働人口

ちなみに同じ理屈で「日本の労働生産性が低いのは、潜在的失業者が多いからだ」も正しい。
雇用が増えて就業者が増えると給与所得者が増えるので、国民の総所得も増える。
総所得は三面等価の原則により総消費と同じであり、GDPである。


「同性愛者は子供を作らないので生産性が低いから、同性愛者に投資するぐらいなら子育てへの投資に回した方が良い」


これは生産性の話ではない。

「出生率」の話である。

生産性の面で考えると同性愛者に投資しようが、子育てに投資しようが、投資総額が同じなら、どちらも可処分所得の増加に繋がり労働生産性は同じように向上する。

この話は「出生率を増やすために、子育て世代への投資を増やしましょう」と言えば良いだけである。


世間の「日本の生産性が低いのは...」系の話はほとんど嘘


メデイアで流れる「日本の生産性が低いのは...」系の話は、驚くほど全て「需要」と「供給」を混同した、間違いである。

「日本の生産性が低いのは」で始まる話を聞くときは、それが「供給」の話か「需要」の話がよく考えて聞いてみて欲しい。

「日本の生産性」の指標はだいたい「GDP」で計算しており、GDPは「需要」である。

何度も言うが「日本の生産性」を増加したければ消費を増やせば良い。

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オッサンです。実務経験は Windows環境にて C#,VB.NET ,SQL Server T-SQL,Oracle PL/SQL,PostgreSQL,MariaDB。昔はDelphi,C,C++ など。 趣味はUbuntu,PHP,PostgreSQL,MariaDBかな ?基本無料のやつ。

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