「寄らば大樹の陰」は間違っている - SIer業界のおかしな商売感

2019年6月4日火曜日

システム開発 システム業界問題

t f B! P L

SIer業界で働く人々の商売に関する考え方を聞いていると商売の常識から考えておかしな考え方が蔓延していると思う。

簡単に表すと以下のようになる。

(1)寄らば大樹の陰

発注元は大企業や官公庁など大きな組織が良く、システム開発プロジェクトは大規模な案件の方がより良い。

(2)顧客に逆らってはいけない

「お客様は神様です」という考え方のこと。
顧客が明らかに違った要求をしても従業員に無理矢理従わせようとする。
「説明」とか「ユーザー教育」という概念すら存在しない。

(3)サービスの標準化や規格化などという概念はない

完全に自社製品作りうるのは確かに難しいことだ。
しかし、自社製品まで行かなくても、自社のサービスをある程度規格化して、規格に沿ってサービスを提供した方が、標準化によって生産性は上がり、顧客も規格に合わせようとするから、顧客トラブルも起きにくい。
しかし、標準化や規格化などという概念はない。
考えようともしない。

(4)リスクを回避するならSESが良い

請負仕事はリスクが大きいから派遣SEや偽装請負のような形で客先常駐仕事をやった方がリスク回避できるので良い。

(5)客先常駐の方が生産性が高い

客先常駐の方が顧客とのコミュニケーションが取りやすく、一カ所に集まって作業をするので生産性が高い。

SIer業界やSESなど派遣SEの働き方にどっぷり浸かっている人は、それ以外の商売に関する考え方を知らないので、一度ITシステムではない別の商売のつもりで以下の記事を読んでみて欲しい。

一つ一つ反論してみたいと思う。

(1)寄らば大樹の陰

ITシステム受託開発の世界では、大口案件が好まれる傾向にある。
「大企業や官公庁の大規模開発に参画できるのが良い仕事」という常識が蔓延している。

確かに大手の元請けSIerならその通りだ。

しかしこの考え方は下請けには成立しないと思う。
大手企業ほど単価が高くなるので収益率が高いと言われるが、3次請け以下の受託開発業者から見れば、中抜きされる金額が大きくなるだけで、収益率は高くならない。
大手ほど安定していると思われているが、これも3次請け以下の受託開発業者から見れば、元請けや2次請けなどに切られるリスクがあるから、ちっとも安定していない。
それどころか直接発注元とコミュニケーションが取れないので、管理や前工程の仕様など発注元と相談して品質を保障してもらうことができないので、返ってリスクが高くなる。
大体、多重請負では自社の失敗の責任は下請けに押しつける会社が多数派だ。
大口案件になるほど多重請負の階層が深くなる傾向にあるので、中小零細企業にとっては、大口案件ほどリスクが高くなることになる。
管理と前工程のコントロールが利かなくなるからだ。

一つの取引先に依存するのはリスクが大きい

中小零細が大口案件に参画すると全体の利益の多くの比率をその大口案件に依存することになる。
その案件が失われたら損害比率が大きくなり、最悪倒産してしまう。
だから中小零細はできるだけ中小口案件を10から20程度に分載し、いくつか失われても損害が小さくなるようにリスク回避するというのは以下に上げる例のように割と常識である。




大口案件の4次請けより、中小口案件の元請けの方が、管理や前工程のコントロールがし易く、顧客との相談と努力次第で、管理や前工程の失敗を防げる。

フリーランスの場合は一社常駐は奴隷状態に等しい

今はITエンジニアは人手不足でフリーランスエンジニアの待遇は良いと思う。
しかし、先の考え方で考えると、フリーランスは個人事業主(経営者兼労働者)なので、一社常駐は一つの取引先に依存している状態なので、リスクの最も高い経営ということになる。
事業主であるなら、顧客を複数に分散する方法を経営者として考えるべきだと思う。
個人では難しいと思うが。

例えば作家の場合は複数の出版社から本を出版して、一つの出版社に依存しないなどの工夫をしているそうだ。

さすがに個人で取引先を20分割するのは難しいが、3つ4つ5つぐらいなら挑戦すべきかも知れない。
また、仕事の全てがITエンジニア業でなくても良いと思う。
無線LANなどIT機器の設置販売サービスやプログラミング教育、零細ITコンサルや執筆業など、「事業主」なのだからITエンジニア業に限定する必要が無い。
極端な話、アルバイトを兼業していても良い。
「事業主」なのだから何をやっても良いのだ。

最近だと「週3日だけの常駐開発」や「完全リモートワークの開発案件」などもあるので、それらを組み合わせる方法もある。
これなら少なくとも取引先を2つに分割できる。
安いがクラウドソーシングで多数の小口案件に分散することもできる。
両方組み合わせれば、収入を5つぐらいに分割できるかも知れない。

ネットを巡回していると「SQL Server 専門のDBチューニングコンサル」とか、「WordPress 専門ECショップ開設」とか「風俗業専門のWordPressテンプレート開発販売」とかニッチな商売やっている人が色々見つかる。
OSSのカスタマイズや設置サービスとか色々できるかもしれない。
(だったらお前がやれ)

(2)顧客に逆らってはいけない

これはSIer業界に限ったものではないが、法的にも資本主義的にも「売り手と買い手は原則として対等」であり「売り手と買い手は価値の交換をしている」関係にあり、雇用関係にはない。
従って「売り手と買い手はお互いを自由に選べる」関係であり、お互いに相手に服従する必要はない。
取引関係では売り手は買い手より弱いと思われているが、これは需給バランスによって変わるもので固定された関係ではない。
需要が多ければ売り手が有利で、供給が多ければ買い手が強い、それだけだ。
受託仕事の場合「下請法」によってその権利を守られているから、理不尽な取引を強要されたら公正取引委員会に通報できるので、必ずしも売り手が不利なわけでも無い。
「顧客に逆らってはいけない」とか「お客様は神様です」という理屈はどう考えても成り立たないのだ。

受託仕事はユーザー教育しなければ成り立たない

多重請負のようなケースを除けば、受託仕事の顧客は皆、その分野の素人である。
システム開発でもデザインでも作家でも漫画家でも建設業でも弁護士でも皆顧客は素人である。
素人であるがゆえに、顧客は間違った要求や作業手順で仕事の依頼をしてしまう。
その時は玄人である受託者は正しいやり方を顧客に説明して間違いを改めさせる必要がある。
この繰り返しが「ユーザー教育」である。
コンサルタントのように教師のように教育するやり方もあるが、通常は受託者による発注者の間違いの訂正と説明の繰り返しがユーザー教育になる。
ユーザー教育を受けて成長した発注者はその分野で正しい発注が出来るようになり失敗や損害を出しにくくなる。
つまり生産性が向上する。
これは受託者にとっても生産性向上になる。
だから受託仕事はユーザー教育しなければ成り立たないのだ。
「顧客に逆らってはいけない」とか「お客様は神様です」などと言っていたらユーザー教育などできる分けがない。

(3)サービスの標準化や規格化などという概念はない

受託仕事であっても提供する製品やサービスはある程度「規格化」したほうがよい。
「何でも屋」ではサービスを標準化できないので生産性を向上させる創意工夫がまったくできない。

ITシステム受託開発の世界では標準化や規格化を進めて生産性を向上させようとしている会社は少ない。
標準化や規格化を進めている会社は
「使用する技術をRuby on RailsとMySQLとWebに限定する」
「Java と PHP、Oracle,MySQLだけで業務システムを提供する」
などサービス規格を絞り込む工夫をしている。
こういう会社は自動化にも積極的だ。
規格化するから業務を標準化できて、標準化するから自動化できるのだ。

「旨いラーメン屋にはラーメンしか置いていない」の法則にもあるように「何でもやります」では良いサービスや製品は提供できない。

オーダーメイドのスーツや靴なども受託仕事だが、提供する製品は規格化されており、既に製品化された規格品を顧客の身体や都合に合わせてカスタマイズしている。
ITシステムでも似たようなことはできるはずだが、どちらかと言えばSAPのカスタマイズのように他社が標準化した規格をわざわざ改造して「車輪の再発明」を増やすような話ばかり聞く。
スーツや靴のように寸法やパラメーターを変えるだけで基本構造は変えない規格化の方向性が正しい。
スーツをカスタマイズして軍服や和服を作るような話を良く聞く。

(4)リスクを回避するならSESが良い

これは「やり方次第」でもあるが、私の経験上はSESはむしろリスクと損害が大きい。
そのリスクは
「労働者の権利を守れない」
「ITベンダーとしての著作権を守れない」
「優越的地位の濫用から自分の権利を守れない」
の三つだ。

労働者の権利を守れない

客先常駐で実質労働者のSESは「準委任契約」であれば事業主としての権利を守れないし、その場合は「実質労働者」なので労働者の権利も守れない。

ITベンダーとしての著作権を守れない

請負契約で持帰り案件であれば開発したソフトウェアの版権はITベンダーのものとなる。
版権が必要なら別途契約により版権を買い取らなければならない。
その分高くなる。
しかし客先常駐であれば、ほとんどの場合開発したソフトウェアの版権はタダで常駐元に奪われる。
派遣労働者と同じ扱いだからそうなるのだが、実際は準委任契約なので、版権を買い取らなければ版権は受託者のものである。

優越的地位の濫用から自分の権利を守れない

7年ぐらい前に、3次請けの立場で元請けが書いた要件定義書に従って基本設計からシステムを開発してユーザー検収を受けた。
すると元請けの要件定義書の初歩的な間違いが発覚し、元請けから緊急の仕様変更を命じられた。
依頼ではない命令だ。
準委任契約なので指揮命令権は受託者側にあり完全に偽装請負になる。
しかし時間的スケジュール延長も追加予算もなく、仕様変更だけ命令されたので、普通に考えて「ゼロ時間でタダ働きでシステム改修しろ」という命令だ。
しかもその原因が元請けの書いた要件定義書の間違いなので、私から見れば「元請けの失敗の責任を私に押しつけられている」状態だ。
通常の請負契約なら公正取引委員会に訴えれば下請法違反で、私の権利は守られただろう。
しかし、SESの形で入っていたので、私の権利は守られず、命令には予算的にも時間的にも対応できる分けがないので、従えない。
結果、ゼロ時間仕様変更に応じなかった責任を理由に、契約解除(クビ)にされた。
所属のSES会社は勝手に顧客に謝るだけで、下請法の権利を守ろうともしなかった。
これがSESで受託開発をするということだ。
重要な権利を奪われて受託仕事をすることになる。

これで一体どうして「リスクが低い」ことになるのかまったく理解できない。

請負契約の方が下請法で守られる分だけ遙かに「リスクが低い」ことになると思う。
法的権利を全て放棄することのどこが「リスクが低い」のだろうか。
まったく理解できない。

(5)客先常駐の方が生産性が高い

これはネット環境や開発環境の貧弱だった昔の考え方である。

現在では、やり方やマネジメントの方法にもよるが、客先常駐の方が生産性は低いと思う。
これを語るととても長くなるので残念だがここで全て書けないので、簡単に省略して書く。

客先常駐の管理は大筋において「手抜き管理」である。
「要件定義書や要望書・設計書を一々書きたくないからテキトーに口頭伝達したい」
「文書で伝達すると証拠が残るから証拠が残らないように口頭伝達する」
「仕事のペースを受託者にプレッシャーかけて無理矢理長時間労働させたりして早くやらせたいからオフィスに常駐させる」
などのように、発注者側の手抜き仕事をやりやすいようにする為に「客先常駐」をやらせているのである。
「言った言わない問題」などはオフィスでは発注者側のやりたい放題だが、リモート文書通信では通信履歴という「証拠」が残る。

この件に関しては以前、非同期文書通信のほうが効率が良いという記事を書いたので呼んで見て欲しい。


はっきり言うが「客先常駐の方が生産性が高い」というのは嘘である。
これを言う人は「客先常駐の方が不当な仕様変更や指示要求の間違いの証拠が残らず、発注側に有利だから客先常駐を採用したい」という政治的力関係を強要して下請けから搾取しているだけであり、客先常駐が本当に生産性が高いわけではないのだ。

むしろプログラマーの生産性の高い人達をアメリカで調査したところ、在宅勤務や個室勤務などで高い裁量権を与えられている人ほど生産性が高かったという結果が出たと言う。
過干渉は生産性を落とすということだ。
文書化できないルーズな管理やマイクロマネジメントは下手くその象徴だ。
証拠を残したがらないのがその証拠。
生産性が上がらないのは下手くそなマネジメントのせいなのだ。
客先常駐など下手くそな管理の象徴だ。

管理など要らない、という意見も最近は出てきている。





「客先常駐の方が生産性が高い」など嘘か、発注元の下手くそな管理能力を意味している。

SIer業界全体で商売の考え方が歪んでいる

技術的な話はここではしない。

SIer業界の様々な歪みの原因を作ったのは発注元のユーザー企業だと思うのでSIerを批判することはしない。
SESもその影響によって生まれた物なので、SES業者自体を批判しても無意味だと思っている。

しかし、そのローカルな世界で語られる歪んだ「価値観」は批判しておいたほうが良いと思う。

SIer業界全体に蔓延するの商売感は正常な物ではないと思う。





これから紹介する書籍はITシステム受託開発とは何の関係もない「工業用バネ」を製造販売している従業員数20数人の零細企業の社長さんが書いた書籍だ。

ITとまったく関係無い零細の物作り下請け製造業の良質なビジネス戦略と商売に対する正常な物の考え方を考える上でとても良い参考書になる良書である。

ITシステム開発業界の下請けの立場で働いている人は、「物作り商売の正しい考え方はどうあるべきか」考える上でとても参考になるので読んで見て欲しい。


中里スプリング社は、元々オーダーメイドの受託開発で工業用バネを生産して納品する、ITシステム受託開発の会社と同じような商売をやっていた会社だったのだが、販路拡大の為「数百種類」の規格品のバネを販売し、その規格品の販売過程で顧客の営業相談に乗り「規格品のカスタマイズ」で顧客を増やしていったそうだ。
理想的な受託開発業の先生である。
その後日本全国の47都道府県の製造業者に飛び込み営業で、1600社以上の取引先を確保しているそうだ。
その状態でも従業員数は20数人で回しているそうである。
「取引先20分割」どころではない。
たった20数人で「取引先1600分割」である。
経営者としてはとんでもなく優秀と言わざる得ない。
なぜ会社を大きくしないのか分からないが、それは経営者の自由である。

受託商売を考える上で、とても参考になる書籍なのでSIer業界でおかしな商売感を持っている人は是非、読んで見て欲しい。



このブログを検索

Translate

人気の投稿

自己紹介

自分の写真
オッサンです。実務経験は Windows環境にて C#,VB.NET ,SQL Server T-SQL,Oracle PL/SQL,PostgreSQL,MariaDB。昔はDelphi,C,C++ など。 趣味はUbuntu,PHP,PostgreSQL,MariaDBかな ?基本無料のやつ。

QooQ