世間の解雇規制論は事実誤認の無意味な空論にすぎない

2019年4月20日土曜日

雇用 政治

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企業経営者や一部の非正規雇用の人々などから「無期雇用の解雇規制を緩和すべきだ」という声がしばらく前から上がっている。
また、同じ文脈で経済学者の竹中平蔵氏は解雇規制緩和を推進していると世間では語られている。
しかし少し調べてみると、これらの話にはいくつもの事実誤認があることが分かった。

事実誤認は以下のようになる。
(1)法律の解雇規制が厳しいは嘘
「解雇は法律で厳しく禁じられており正社員は事実上解雇出来ない」と言われているが実際の法律の解雇規制は厳しいものでは無い。
(2)判例で解雇出来ないは嘘
「過去の裁判所の判例で事実上解雇出来ない」と言われているがこれも事実と異なる。
(3)竹中平蔵氏は解雇自由化を進めているは嘘

一つずつ説明したい。

(1)法律の解雇規制が厳しいは嘘

解雇に関する法的な規制は労働契約法と労働基準法に記載されている。


労働契約法

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
2 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。


労働基準法

第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
○2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
○3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。


労働契約法第十六条には当たり前のことしか書かれていない。
合理的理由を欠き、社会通念上相当ではない理由で解雇できたら、問題だろう。
第十七条は有期雇用の解雇規制なので無期雇用(正社員)は関係無い。

労働基準法第二十条は、解雇する場合三十日前に予告するか、三十日分の賃金を払えと言っているだけだ。

私にはこれらの解雇規制がお世辞にも厳しいとは思えない。
少なくともこの法律で解雇ができないとは言えないだろう。
したがって「法律の解雇規制が厳しすぎるから正社員を解雇できない」という話は嘘と言わざる得ない。

(2)判例で解雇出来ないは嘘

似たような話で、「裁判所の判例で事実上は正社員の解雇ができない」と説明されているが、ウィキペディアの「整理解雇」の記事を読む限り必ずしも解雇できないわけではない。

「裁判所の判例」というのが「整理解雇の四要件」という解雇が認められる為に会社が最低限満たさなければならない要件である。


(1)人員整理の必要性
(2)解雇回避努力義務の履行
(3)被解雇者選定の合理性
(4)手続の妥当性


解雇するにはこれらの要件を全て満たさなければならないと一般的には言われているが、ウィキペディアには次のように書かれている。


整理解雇はこの要件にすべて適合しないと無効(不当解雇)とされる。もっとも近年の裁判では四要件を厳格に運用することは少なく、人員整理の必要性のみで判断する場合や、それに加えて配置転換や手続の妥当性を考慮に入れて判断している場合が多く、四要件をすべて満たさなくても解雇が認められている裁判も多い。四要件が確立される根拠となった過去の判例には大企業を舞台としたものが多く、必ずしも中小企業の実情に即しているとはいえなかった。


つまりこの判例は大企業の正社員の解雇の話で、中小企業の正社員に適用できるものではないというのが事実のようだ。
私も過去にいくつか中小企業で「社員を解雇した」という話を聞いたことがあるので「正社員は解雇できない」という話に疑問をもっていた。

少なくとも中小企業において「正社員は事実上解雇することができない」というのは嘘だろう。

また、最近は富士通や日本コカコーラなどで事実上の中高年の整理解雇が行われているので、現実に「正社員が解雇出来ない」という話は否定されていると見なすべきだろう。


(3)竹中平蔵氏は解雇自由化を進めているは嘘

「竹中平蔵氏が解雇自由化を進めている」という話は非常に多く言われているが、テレビ朝日「朝まで生テレビ」に竹中平蔵氏が出演したとき議論を書き起こした以下のブログ記事を読む限り、どうも違うようである。



「竹中:日本の場合、中小企業にそれが適用されていないからなんですよ。だから、厳しいルールも必要なんです。ただ、今はルールが明確ではないということが重要なんです。それを明確化しようと言ったら、『解雇自由化』という議論に歪められるんですよ。」


竹中平蔵氏が進めているのは「解雇自由化」ではなく「解雇のルールを法律で明確にする」という措置であって、この台詞を見る限り「解雇自由化」を進めているようには見えない。

解雇規制論を整理してみる

まず現状認識だが、企業経営者らが主張する「法律や判例が厳しすぎて事実上は正社員を解雇出来ない」という意見は事実誤認だと言える。

事実は「法律の解雇規制はそれほど厳しくない」が正しい。
また、裁判の判例が反映された、「整理解雇の四要件」も中小企業においては必ずしも厳格に守らなければならないものではなく、中小企業では正社員の解雇はよく行われていると言える。

大企業においても最近は現実に整理解雇が行われている。

解雇の問題は「法律の解雇規制は緩い」のと「整理解雇の四要件」が厳格なルールと誤認されていることにより、解雇規制が曖昧になっており、経営者によって解雇規制の解釈がバラバラになっている点にある。

竹中平蔵氏はこの曖昧な解雇規制を法律で明確に規定し、曖昧さを排除しようと主張しているのだ。

竹中平蔵氏がどんな解雇規制法を想定しているかわからないが、それは重要ではないと思う。
この話は「労働契約法に解雇のルールを記載しましょう」という話なのでその内容は必ず国会議員の精査を受ける。
竹中平蔵氏がどんな解雇規制法を想定しているかは関係無いのだ。
それを決めるのは国会議員だ。

企業経営者らが解雇規制の緩和を主張しているが、政府はそのような議論はしていない。
というのが事実のようだ。

これらの話には企業経営者らのブラフが多く含まれているように見える。

少なくとも「労働契約法に解雇のルールを記載しましょう」という話が政府内にあるのならば、解雇規制の緩和の話より、解雇規制の明文化の方が優先されるだろう。
現在は解雇規制が明確な法律になっていないため、判例の誤認に基づく曖昧な解釈が横行している状態で、解雇規制の緩和などできる状態にないのだ。
仮に解雇規制の緩和を実施するにしてもその前に解雇規制を法律に記載しなければならない。

現在の世間の解雇規制論は事実誤認の空論に過ぎないのだ。

マトモに相手にしない方が良い。

まず、やるべき事は「労働契約法に解雇のルールを記載する」ことだ。

それをやらなければ何も始まらない。


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オッサンです。実務経験は Windows環境にて C#,VB.NET ,SQL Server T-SQL,Oracle PL/SQL,PostgreSQL,MariaDB。昔はDelphi,C,C++ など。 趣味はUbuntu,PHP,PostgreSQL,MariaDBかな ?基本無料のやつ。

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