消えたB-TRONに思うところ

2018年8月28日火曜日

閑話

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 その昔、TRONという国産OSが存在した。現在のLinuxのように仕様を公開し誰の所有物でもない規格として公開されたOSだ。開発した実装の「B-Right V」はソースを公開しなかったが理論的にはTRON仕様に従って作れば誰でも同じ物が作れるはずだった。

 B-TRONが何時登場し、どのように消えていったかは以下のサイトに書かれていますから参照してください。

孫正義氏に潰された日本発のパソコン

 誤解の無いように言っておくが私は孫正義氏に対して特に敵意は持っていない。
 画期的な新製品を世に出すときは何か障害に衝突するものであり、この件も普通の障害と変わりないと思っている。日本の自動車や電器メーカーはもっと大きな障害を経験しているだろう。特に珍しいとは思わない。
 スーパー301号を乗り越えられないのなら、どちらにせよ潰れていたと思うし実際そうなった。
 また逆に同じ障害を経験している組み込みOSの I-TRON は広く普及している。

 「B-Right V」は商品名「超漢字」という名で現在も販売されている。
 しかし現在の「超漢字」はOSでは無くVMWare 上で動く Windowsアプリになっている。

超漢字

 元々OSとして開発販売されていたが2008年に消滅した。
 現在は並行して販売されていたWindows用アプリだけが販売されている。
 丁度 WSL(Windows Subsystem for Linux)のような製品だ。

B-TRONの支持者はなぜ支持するのか


 超漢字(B-Right V)は一部のユーザーに熱烈に支持されていた。
 OSとして消滅したことを今でも嘆いている人々は少なくない。
 彼らに超漢字が支持される理由は以下のようなモノだ。

(A)世界中の全ての文字が一つののテキストファイルの中で使用できる。
 TRONコードというTRON規格の文字コードを使用し18万文字を使用することができる。
 日本語の全ての漢字(異体字を含む)に国字改正前の正字、さらに台湾や韓国、中国の簡体字・繁体字、ベトナムの漢字など全てを全て扱える。ギリシア、ベンガル、タイやチベットの文字も同様に使える。

多文字を使う

 TRONコードは主に2バイトで文字を表し約65,000文字を扱える盤面をエスケープコードで切り替えて多文字を実現している。
 Unicode などより少ないバイト数で遙かに多くの文字を表せ、尚且つ中国語と台湾語と日本語を一つのテキストに同居させることが出来る。Unicode では出来ない。
<2018-09-08追記>
UTF-8 では出来るようです。
</追記>

(B)実身/仮身 によるファイル管理
 これは簡単に説明できない。使ってみるしか無いが重要な特徴である。
 実身というのが物理ファイルで仮身というのはそのリンクとフォルダーを会わせたようなものである。B-TRON 独自の仕様だ。

(C)リアルタイムOS
 キー入力やマウスクリックといったイベントに対して待たされること無くすぐに反応が返ってくる仕様。OS自体のプロセス管理に優先順位が設定されており速反応が要求されるイベントは優先して先に処理される。
 Windowsなどの場合はバックグラウンドでウイルス検索などが走ると反応が遅くなるが、リアルタイムOS では仕様上そのような事はあり得ない。

(D)非常に軽量、起動が速く、動作も速い。
 2000年当時のPCで4秒で起動する。動作が速いのはリアルタイムOSだからである。

(E)純国産OS
 OSの中に何が組み込まれているか日本国は全て把握できる。
 TRON規格自体はオープン規格なのでもしオープンソースにするとLinuxのように世界中でソースを読める。内容も把握できる。
 中国製IT機器が今アメリカ・オーストラリア・日本でセキュリティ問題になっているがIT機器やソフトウェアがブラックボックスになっているのは国防と諜報の点から望ましくない。

 リストアップしてみると B-TRON のメリットは非常に大きいのが分かる人もいると思う。

何故売り方を変えなかったのか?


・超漢字(B-Right V)のスペックと当時のデバイス

 超漢字(B-Right V)の求めるPCの最低仕様は非常に軽い。

・Intel Pentiumプロセッサ(486DXおよび互換CPUを含む)
・最低16MB、推奨32MB以上のメインメモリ
・600MB以上のハードディスク空き区画
・640×480ドット16色VGA仕様以上のグラフィック機能

 現在のスマホの中でも軽量な富士通 arrows M04 のスペックは以下のようだ。

・OS Android7.1
・SoC 【 System-on-a-Chip 】Snapdragon 410
・メモリ 2GB
・保存容量 16GB
・SDスロット 最大256GB
・液晶 5.0型IPS(1280×720)

 また当時の競合である Windows 95 のスペックは以下のようになる。

・メモリ 8MB以上(12MB以上を推奨)
・HDD 75MB以上の空きディスク容量が必要
・640x480以上表示可能

 2001年の発売され 10年以上使われた Windows XP のスペックは以下のようになる。

・メモリ 128 MB 以上
・HDD 2.1 GB 以上
・Super VGA (800 × 600) 以上

 超漢字(B-Right V)は非常に軽量だ。

 現在のスマホ程度のスペックでもリソースは大きすぎるぐらいだ。
 2002年にシャープから発売されたPDA端末の海外版ザウルスのSL-5500のスペックと比較してみると、それよりも軽い。

・OS Embedix Plus PDA (PDA用のLinux)
・CPU Intel StrongARM SA1110 206MHz
・DRAM 64MB
・画面 240×320pixcel 縦型3.5インチ液晶

 PDAとは Personal Digital Assistant で1990年から2000年代のモバイルコンピュータである。現在のスマホやタブレットに相当する。
 当時のザウルスシリーズの価格は6万円から9万円といった価格帯だ。これでスクリーンもキーボードも内蔵されている。ペン入力も可能だ。

 2002年当時の技術で B-Right V を快適に動かすに十分な端末を10万円以下の価格帯で作ることができたということだ。(B-Right V もペン入力に対応している)

B-TRON なら早い段階からモバイルコンピュータを開発できた


 1995年以降、Windows 95 の圧倒的勝利を前にして、B-TRON陣営は Windows と共存する道を模索する。

 仮想環境の VM Ware を使用しWindows上で超漢字(B-Right V)を動かせるようにした。
 超漢字(B-Right V)は軽いので Windows のアプリにしてしまうというのは一つの手段として有効だと思う。
 しかし Windows のアプリにするとせっかくの「高速・軽量・リアルタイムOS」という特徴を生かせなくなる。

 もう一つの手段として Windows と 超漢字をデュアルブートするノートPCを販売した。これは確かに超漢字の「高速・リアルタイムOS」という特徴を生かせる製品だ。
 しかし「軽量」という特徴を生かせていない。

 私には B-TRON 陣営の販売戦略はどうも中途半端で十分に B-TRON の魅力を生かせない製品ばかり作っているように見えた。

 超漢字(B-Right V)は明らかにモバイル端末のOSとして販売すべきだった。
 ザウルスの例で上げたように低スペックの端末でも超漢字を動かすには十分なスペックを持っているのである。
 Windows と共存していたら PC の性能はWindowsに合わせて当時もっとも高性能で高価な端末を販売しなければならなかった。
 しかし超漢字はもっと安く低性能の端末でも快適に動作する。
 CPUは486DX相当で良いのだ。
 メモリは32MB以上であればよく2000年当時なら64MBから256MBぐらいのメモリは安く用意できたはずだ。
 HDDは2000年当時なら80GB前後の世界である。10GBから30GBぐらいの安いHDDを用意すれば良い。どうせテキストとベクター図形とビットマップぐらいしか使わないのだから、大した容量は必要ないのだ。
 当時画面表示は既にHD(1024 x 768)の時代に入っていた。これは最新のものを採用。価格や大きさが上がりすぎるならVGA(640 x 480)で良い。
 通信には 2001年から始まった PHS 回線の AIR-EDGE を使用しテキスト中心の低速通信を安価に実現する。(408kbps 月額3,880円の定額制)
 以上のように最小構成で低性能安価なモバイルノートを小型軽量に設計して販売すれば、当時としてはかなり魅力的な製品になったと思う。
 PHS回線を使用するから電話を内蔵することも可能だったと思う。
 Windowsとのファイル共有は、既に Windows上で稼働するアプリ版の超漢字と共有すれば良い。

 つまり同じPCデバイスにWindowsと超漢字を共存させるのではなく安価な超漢字専用デバイスを開発して二台目モバイルPCとして売り込めば良かったのだ思う。

 今から言っても「後出しジャンケン」なのは分かっている。
 私も超漢字(B-Right V)に魅力を感じていたので残念なだけなのだ。(以前は少し使用していた。今は使用していない)

日本人は製品のデザインが下手なのか


 B-TRON のケースを見て「日本人は複数の技術を統合した製品のデザインが下手なのだろうか ?」とも思ったが、そうとも言えない。
 NTTドコモの「i-mode」に代表される「ガラケー」は当時としては優れた製品デザインだった。
 「i-mode」は製品開発からサービスの提供まで全てNTTドコモが主導権を握っているから成功したのかも知れない。
 B-TRON 陣営にはNTTドコモのようなリーダーシップや資金力が無かった。

 つまり、技術力の問題では無くガバナンスやリーダーシップ、マーケティングといった部分に問題があるのだろう。
 こうしてみると製品デザインには技術に対する理解だけではなく、その時代に存在し活用可能な技術や製品、サービスの知識と、ユーザーの生活様式に関する理解が必要なのが分かる。
 技術力で特攻する傾向の多かった日本企業には統合的な企画力が弱いようにも見える。何でも自社で作ろうとする性質や、「ヨソとは違うウチのやり方」にバカみたいに拘るところは今でもあると思う。

今 B-TRON を再現する意味はあるか


 「今更、B-TRON なんて売れるわけない」と思うだろう。
 私もメイン端末として B-TRON 端末が売れるとは思わない。
 しかし今は、「一人で何台もの端末を持つ」時代だ。
 PCを良く使う人ならば次のようなケースは珍しくないだろう。

「自宅にデュアルスクリーンのデスクトップを一台保有。
持ち運び用に MacBook や Surface を一台。
スマホ一台、タブレット一台。
会社で使用する社用PC一台。
仕事用スマホ(社用)一台」

といった具合だ。
 私の場合はサイズの違う kindle を二台もっているので、モバイル端末だけならもっと多い。
 PCを Windows, と Mac の二台保有している人も多いと思う。

 つまり、これだけ沢山の端末を保有するのが当たり前の時代なら、価格が安い B-TRONモバイルPCをもう一台購入することに抵抗は少ないと思うのだ。
 また、先に紹介したように B-TRON 導入の便益は人によっては大きい。

中国、台湾、韓国、ASEAN、インドなど「非アルファベット圏」新興国の台頭と多文字OS


 中国、台湾、韓国、ASEAN、インドなどに新興国の経済成長が凄まじい。
 日本製品の顧客としては新興国は非常に魅力的だ。そしてASEAN諸国などは欧米のソフトウェアに必ずしも満足していないという話も聞く。
 真偽のほどは定かでは無いがあり得る話だ。

 私の戸籍上の名前は一部「異体字」を使用する。この漢字は現在の Unicode では書くことが出来ない。
 つまり私はPCで自分の名前を使うことが出来ない。仕方なくUnicodeで使用可能な漢字を使用している。

 また、ニュースサイトなどで中国のニュースで地名や人名が登場したとき、日本語のWEBサイトで中国の漢字表記を記載できないということは日常茶飯事であろう。
 Unicodeは日本の漢字と中国の漢字と台湾の漢字を共存できない。複数の言語が混在することを想定していないのだ。
 現実には東アジアで互いの言語が混在することはこれからもっと増えていく。
 秋葉原を見れば分かるだろう。

 「非アルファベット圏」でも同様の問題はあるはずである。

 この複数言語混在の問題を解消する上でTRONコードという文字コードは有益になり得る。

もし、今 B-TRON を売るならば、どうする


 Windows 95 の開発時にチーフアーキテクトを務めた中島 聡(なかじま さとし)氏は自身のブロマガで「Windows 10 ラップトップを自分がデザインするならどんなデザインにするか」という企画で製品案を描いている。コピペするわけにはいかないので要約を書く。

「スマホのような小型デバイスに軽量のWindowsを搭載しポケットに入れて持ち運びやすい端末にする。
もちろんこれはスマホのように使用することも出来る。
デュアルスクリーンに対応し、大型のスクリーンとキーボードに接続すると、デスクトップPCとして使用することが出来る。
接続はドッキングステーションのようなものを使用して置くだけで簡単にできるようにする。
会社と自宅にスクリーンとキーボードをそれぞれ置いておけば、スマホ型の本体を持ち歩くだけでPCを丸ごと持ち運べるので便利です。
もちろんモバイル対応です」

 こんな端末で仕事が出来ればかなり便利だ。
 しかし Windows のような重い OS でこれを作るのはかなり難しい。
 しかし、軽量な B-TRON ならば現在の技術で実現可能だ。
 B-TRON ならストレージのサイズも軽量なので、クラウドにストレージのリアルタイムバックアップも実現し安いだろう。
 先に説明したように Windows とのファイル共有は既に実現している。

 B-TRON = 超漢字(B-Right V)の課題は、既にOS版は開発を終了しているので現在の超漢字は最新のデバイスに対応していない。
 シリアルインターフェイスやSSDに対応していないので、それらに対応するデバイスドライバの開発が必要になる。ネットワーク周りも最新に対応する必要があるだろう。
 ただそれらは特に新しい技術を作るわけでは無い。
 端末の性能はスマホにデュアルスクリーンの機能を追加する程度で良い。
 あとは市販のディスプレイとキーボードとマウスに繋ぐだけだ。

 超漢字は32bitのOSだが、これを64bitに改造する必要は無いと思う。
 大容量処理は Windows と Linux に任せてしまえば良い。それらに出来ない多文字処理を担当すれば良いのだ。

 B-TRON には結構根強いファンがいるのでその潜在ファンだけに売れればペイする製品にしてしまうことも可能では無いかと思う。
 少し国内で売れたら中国や台湾で売ってみれば良いと思う。
 中国でも大卒高学歴は古典の繁体字を使用するので Windows では不便なところがあるのでは無いだろうか ?


 今日はちょっとした思考実験というか遊びの記事を書いてみた。
 システム関連の記事は長文になってしまうので、中々リリースできない。
 時々、こういう「遊びの企画」を混ぜていこうと思う。

終わり。

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